OQOに物思う

ずいぶん遅れてOQOを手にする機会を与えられました。
もちろん、高くて買えないのですが・・・・・
本体以上に価格を感じさせる箱に入っています。
黒い大きな、Vaio-Tの入っていたダンボールケースが二個は入りそうな程大きな箱。
箱には銀の文字で「OQO」という文字がひそやかにそしてしっかりと自己主張しています。
箱を開けると、大きな箱の中にOQOの小さなボディが一つ見えるだけ。
唯一、蓋の裏の緩衝材の本体が収まるべき凹みの一部に穴が開けられており、底にも黒いケースに収められたマニュアル類の箱が、同じく小さな黒い文字で「OQO」という名称を主張する。
大きな箱だけに、恐らく始めてみる人にはその小ささは驚きにしかならないでしょう。
残念なことに本体を幾度も見たことがある、そして触ったことのある私では1/5ほどの驚きしか得られなかったことは恐らくクレジットカードを持って走らなくていいという分だけ幸福なのでしょう。
それが「OQO」を最も良くあらわしているのでしょう。
 
OQO Model01は最も初期のモデル。プラスの付いた新型では色々と改良がなされていますが、比べるわけでなし形も同じOQOと言う認識です。
写真の入った解説や、タッチフィールに関しては多くの人がレビューをあげられていますので、私などよりもそちらを見るのが より楽しめると思います。
輪達しなりの視点でより捻じ曲げてのレビューとなるでしょう。
そして、このOQOは、既に使われていた物でそのままの環境を載せたまま我が家に遊びに来たので、セットアップに関しては残念ながら楽しめません。
それでも、キーボードを開きパワースイッチを押す瞬間はひとしおです。
 
「Transmeta」
この言葉は私の日記ではよく出してくるメーカー名です。今は無きというのが現在の状態です。
この会社の作ったTM5800というCPUがOQOの心臓です。
一般的なCPUは、CISCの皮をかぶったRISCと称されるように x86系と呼ばれるCPUの命令形態を言語として動いています。
ただ、Pentiumの頃にその拡張は限界に達し、複雑な論理回路は設計と生産の限界に達しました。
その壁を破るために、x86の命令をハードウエアーの命令解読器でRISC命令に書き換えそれを実行するというスタイルを確立し現在に至ります。
現在は、再びCISCのまま実行したほうが高速な命令はCISCのまま実行するような設計が増えてきましたが、その過渡期に登場したCPUです。
TransmetaのCPUは、そのデコード部を専用の汎用プロセッサに実行をゆだね、CPU上のファームでどんなCPUにも変身出来るCPUを作り出しました。
それが、「クルーソー」なのです。
汎用のデコーダーは非常にコンパクトで、小さくなったダイサイズはコストに大きく貢献し 発売当時は同クロックのIntel製CPUの半額以下だったと聞きます。
遅い汎用デコーダーの欠点を克服するために、メモリー上に命令でコード用のキャッシュを持ち、良く使われる並びの命令は 変換後の命令セットへ変換した内容を記録し それを利用することでスループットを一気に上げてゆくという手法をとります。
コンパイラーの吐き出すコードには癖があり、同じようなロジックのコードを吐き出しがちなので 電源を入れた時からプログラムの実行が繰り返されればされるほど速くなるという特性を持ちました。
各社から「クルーソー」搭載のPCが発売されました。
ダイサイズの小ささと、それ故にノースブリッジまでを抱合したパッケージは、今まで考えていても実現できなかった小型のPCを各社から登場させることが出来たからです。
 
あくまでも、これは企業規模の問題ですが「Transmeta」は時代を読み損ねました。
最も大きな問題はCMSで、発売当時のWindowsMeは16bit系Windows最後のOS。気がついたときには32bit全盛が目の前に。
互換CPUである「クルーソー」は勿論実行は出来ますが、CMSのサイズが16Mでは小さすぎて命令が繰り返される前にキャッシュが消えてしまいOSの肥大化によって、RAMの増大によってキャッシュのヒット率は一気に下がりその実行速度がOSの変化によって著しく低下しました。
もう一つ、確かにCMSにキャッシュされた命令は高速に実行されましたが それは実行が続けられているとき モバイルにシフトされたはずのこのCPUが電源を切るたびに今までのキャッシュを忘れ去ってしまい、遅いところからスタートすると電源のON/OFFが繰り返される用途では早くなる前に作業が終わってしまう。
つまり、思った以上に遅いCPUとして認識されてしまったことです。
その後、勿論Transmetaがそれに対して何の対策も取らなかったわけではなく、少ない予算から最も効率的な方法で対策を立てます。
モリー上に展開するキャッシュを、16M→24Mに拡大しキャッシュのヒット率を大きく引き上げることに成功し、PCのシャットダウン時にHDDにキャッシュの内容を書き込み次回起動時に戻すだけで、前回終了したときと同じ状態で つまり高速化された状態での起動を可能にしました。
しかし、既に印象づいてしまったイメージを払拭することは出来なかったようです。
WindowsXPにおいて、前の型と新しい型では目を見張るほどの高速化がなされているのですが、それに触れられることはどの雑誌や記事でもなかったようです。
 
勿論 他にも、MMXといわれるマルチメディア命令の進歩についていけなかったこと、ノースブリッジをCPU統合にしたために メモリーの進歩についていけなかったこと、同じ理由で新しいチップセットが採用されず HDDも高速の物が接続できない、AGPがサポートされない等々 PCを高速化する手法の多くに置き去りにされてしまいました。
そして、時代の影の部分に追いやられてしまいました。
そして、OQOはTransmeta最後のCPU 「Efficeon」の登場と同じ頃に発表されます。
新たに、Intelに匹敵する速度(?)を手に入れたTransmetaのCPUをあえて使わず(開発期間から考えるとスタート時点では影も形も無かったと思います)ふるい「クルーソー」を使った事がこの「OQO」を特徴付けることに成っています。
 
その画面
WVGAと呼ばれる800x480というVGAを横長にしただけの画面。
800x600に成らなかったのはこのサイズのそういった液晶が恐らく無かった事に起因するのでしょう。
しかし、これが最も大きな効果を得ています。
画面サイズはCPUにとってPCにとって大きな負担になります。少し前の800x600のPCなどを出してくると判るのですが 思いのほか快適なのです。
画面解像度が小さいことが、「OQO」の速度を思ったほど遅く感じさせない事に強い影響を与えています。
 
HDDの速度
ATA33を最大とする速度、今となってはとても高速とはいえません。大きなキャッシュメモリーを積んだHDDを搭載してもその恩恵を預かることができない程の性能です。
しかし、今でこそとなるのですが 1.8インチのHDDは出てきたばかりの小型HDD。
そのものの速度が遅く、「OQO」のHDDとしては最適だったといわざる得ないこと。
逆に、1.8インチHDD搭載PCはCPUの速度ほどのパフォーマンスを発揮できないというハンディをしょってしまっているのが現在の実情です。
 
レジューム機能
先日も書いていて指摘を受けましたが、レジューム機能です。
画面のスライドのSWを有効にすると、画面を畳んだ瞬間にレジュームに入ります。
レジューム状態にある間、電源ランプは白く緩やかに点滅しています。
レジュームの状態で、そのまま丸一日程度バッテリーが持続します。
決して大きなバッテリーではないのですが、CPU上にメモリーコントローラーなどを同梱したパッケージの「クルーソー」はそういった細かな制御が可能なようで、PDAのように取り出して数秒(これが長いか短いかですが)で使える状態にスタンバイすることが出来ます。
これは、モバイルPCとして大きなポイントとなりました。
現在は、多くのPCでレジュームの時間は延びているようです。
12時間ぐらいバッテリーのもつPCなら、一日中レジュームでも問題ないですからね良い時代になりました。
 
じゃあ、メインPCとして利用できるのか?
その問いにはNoと言えるでしょう。
最近発売されたVaioUXでもその運用は難しいでしょう。
目を近づける事を前提のPCでは、机の上においての運用は出来ません。
Let‘sノートがすばらしいのは悪戯に解像度を上げないことで机の上に置き キーボードマウスを繋げば実用的なデスクトップPCとして運用できることです。
勿論、OQOの解像度はそれ以下ですが 液晶サイズもそれ以下です。デスクトップPCの画面に窓を開いて覗いているような運用です。
では何のために必要なのか。
私にとっては、「PIM以外の全て」と答えたいと思います。
Bluetoothを搭載している「OQO」は、私の持っているモデムとの相性も良く僅かな時間で立ち上がります。
WEBはPCサイトビューワーならぬPCそのもののビューと成ります。
メールもHTMLを含む全てのメールが読めます。
入力での問題はともかく、見るだけであれば画面を90度回せば大よそPDFの文章も読むことが出来ます。
完全に読みたければ拡大して横画面で読むことも出来ますし、現在のアクロバットリーダーには色々な形態の表示を可能にしています。
音楽もビデオもそれなりの画質で再生してくれます。
インターフェースが少ないことは、USBでクリアできるでしょう。
僅か400gでPCが持ち歩けるのであれば、これは大きなアドバンテージと成るでしょう。
 
最も大きな障壁となるのが価格です。
このパッケージからも判るとおり「OQO」は明確に所有できるターゲットを絞っています。
その為に、機能に妥協はなされていません。
例えば、HDDの防護機能等は最初に採用されたPCなのではないでしょうか?
Jogダイヤルも正規のルートを通しての採用でしょう。
これがあるだけで、マウスにホイールが歩かないかと同じさがあります。
勿論、時期やサイズの関係で搭載されていない物は少なくはありませんが、ボディの強度や作りこみはPCのレベルではない物です。
バッテリーにも単体で残量が表示できるインジケーターが着いていますが、これも 白色のLEDを使っています。
今でこそと言う言葉を多用したくは無いのですが、今でも十分な値段のする白色LED、それも色合いから見る限り きわめて白いこの色のLEDのメーカーは想像できます。
単体で表示できる機能以上に、その部分での作りこみに妥協を許さないポリシーは感じさせます。
その装備のいくつかを取り除けば、大きく価格を下げることが出来るでしょう。
プラスチックの筐体、キーボードを取ること etc・・・・
ORIGAMIと呼ばれるPCがそのいい例です。
ただし「OQO」ではなくなってしまいます。
価格のことを言うのは野暮な話なのですが、価格との満足度では決して損をしたと感じさせないPCでしょう。
でなければブランド品など成立しないのですから。
手を焦がすボディの発熱など、物理的限界はコンパクトにされすぎたボディには影響を与えます。欠点が無いわけではありません。処理によってはマウスカーソルが動かないぐらい遅くなるわけですから。
ですが、それを待つ余裕も「OQO」の所有者の与えられた義務のような気すらさせてくれるPCです(所有してないって・・・)

この後、予備のバッテリーと バッテリー充電器を購入すればよいのですが・・・筋金入りの貧乏人で「OQO」を所有する事が向いていない私にとってはやはり高い機材。
安くで購入できれば試してみたいですよね。
薄い、持ち運びを考慮されたかのようなバッテリーを一枚追加するだけで約4時間の駆動です。
置いておくだけで、金持ちになったような気分になるのは私だけでしょうか?