[おはなし]MNP前夜

注)おはなしの付いたものは、創作物です。実際の団体や個人・商品とは一切関係のない作り話です。現実の設定を一部お借りしているものはありますが 想像の世界の話なので一切信じず読み物としてお楽しみください。
過度に攻撃的な創作なので、見たくない人は飛ばしてくださいね。
 
 
NT&T モバイルは携帯業界では巨人である。65%のシェアは圧倒的であり他者の追従を許さない差でした。
それを追うのが、DDI モバイル。第2位ながら上り調子の携帯電話会社。
それに比べて YSB モバイルは15%のシェアで伸び悩む会社であった。
一台の機種の好調で広告等では善戦するものの、それだけではシェアを伸ばすほどの原動力にはならず 万人が知っているにも関わらず シェアは伸びないという状況が続いた。
そして、MNP(ナンバー持ち運び制度)の適用にビジネスチャンスをかけるしかなかったのである。
 
YSBモバイルは新興の携帯電話会社である。といっても、古くからある会社を買い取ったと言う形で新しいだけで会社自身が新しいわけではない。
有数のネットワーク会社の傘下に入ったことで相乗効果を発揮できるとアナリストも評価する会社である。
ただ、ビジネスは非常なものである。アナリストの期待など一般消費者に伝わるものではなく テレビの広告などの効果に比べれば会社の良し悪し等 一般消費者向けの商品に関しては一概にアピールポイントにならないのが実際である。
繋がりにくさを無くすために、数倍もの規模の会社と同等の設備投資の発表等もその意味を理解できないユーザーにとってはただの企業の業績報告の一文でしかなかった。
特に、今回のように明らかにMNPにとる転出が予測されているのであればその評判がゆっくり広がるのを待つ時間は無かった。
起死回生の一発で転出するユーザーの足を止めるか、転出を予測した将来的な計画をあらわにするかの選択に迫られたわけである。
一般消費者向けのアプローチはテレビCMや衝撃的な料金設定によって行われる。ただ、既に殆どの機種が販売価格0円の携帯電話業界でも機種販売価格の安いYSB モバイルには明らかなアドバンテージにはならず、今までのユーザーにとっては 繋がりにくい状況等を覆す理由にはならないことが最も大きな問題だったのだが 本当にそんなに底の浅い戦略だったのだろうか? たとえ色々な問題が出なかったとして本当にこのプランだけで互角以上に戦えると考えていたのだろうか?
考えていなかったとしたら・・・・・ このお話はその前提から始まります。
 
「はい、ありがとうございます。期日には間違いなく」
超極秘のプロジェクトが水面下で行われていた。
一般ユーザーの切り崩しを行うのには時間が足りなかった というよりも実はそれは見かけ上のダミーであった。
YBSモバイルの買収前からスタートしていた計画がそれであった。それがあるからこそ買収に踏み切ったともいえる。
Ip電話の回線を恐らく日本で最も多く有する、そしてその顧客の情報を同時に最も多く有する会社が傘下にあった。
多くの企業に入り、そのIP電話のソリューションを展開していた会社には一つのジレンマがあった。
固定電話の需要が減り始めることだった。
もちろん、予測された事態であるが 成長型のモデルで成り立っているこの会社では成長が止まることを予測していない。勿論予測はしているが 攻めることに対して守ることには3倍の力が必要であるという理論どおり 攻めることに集中したからこそ他社の3倍の力をかけられたというメリットが消えてしまうことは非常に大きな問題であった。
じゃあ、守りに転じるのか それともこの上の成長を目指すのかの決断で 未だ多くの企業では固定電話がそのままであることから、事 法人だけに限っても未だ市場があるという判断だった。
そのソリューションの障害になっていたのが携帯電話で 手をこまねいているわけにも行かず YBSの前身の会社とは提携と協力を繰り返し絡まりあうように販売を行った。
そして、その中で生まれたのはビジネスの契約に関しては 定額で相互間津輪が出来ると言うビジネスモデルであった。
勿論、データ通信に特化したプランもその中で生まれていった。
 
フォーカスが法人にあたるのは当然で、より多くのリソースを集中できるからである。
一般ユーザーに対して1万円のロイヤリティも企業で100台の導入時に100万円のロイヤリティを支払うわけではない。
その部分へのメリットと、今までに培ってきた顧客があるからこそ成り立つ図式である。
そして、買収前に既に目処が立っていたとしても インサイダーでもなんでも無く故に買収した後の計画が立っていたと言うことである。
その目処とは、大手企業への法人回線の乗り換えである。
その大手企業とは、NT&Tモバイルの大手顧客である X社であった。
 
では、なぜこういったことが出来たのか?
Ip電話同士の通話を無料にし月額の固定料金で運営できるビジネスモデルは既に持っていた。4000円程度の月々のコストが回収できれば 携帯電話もコスト的には赤字にならないことは既にわかっていた。
その二つを組み合わせ、IP電話と携帯電話の間で相互通信コストを定額にするというアプローチが可能になる。
残念ながらどの通信会社も出来ないことを可能に出来たのがYSBモバイルの優れた点であった。
総ての携帯電話はパケットで接続され、IP電話で通信をする。
新規の開発では間に合わなかったが、協力会社にすでにそのソリューションを提供できる会社があった。北欧に本拠地を持つ NAKIAである。
携帯電話としての管理パケットで携帯電話を接続しIP電話で通話をさせることが出来る機種を2機種持っていたNAKIHAは そのNE61、NE60の2機種をあわてて日本の法律に適合させるために登録することを強いられた。
2種類の電話機は、無線LANに接続することも出来 奥内では無線LANで繋がるIPでんわで屋外ではパケットで繋がるIp電話機となるわけです。
VOIP技術に優れるNAKIA社は、16k程度の帯域で一月 8時間×20日でも 160M程度のパケット量で済むだろうことを予測し、パケット通信の料金で言えば2年間の契約であれば パケット専用のプランでも 6000円程度の月額固定で行っている利用率である。
9800円月額でスタートし、会社との電話 同じIP電話を利用しているユーザーとの電話、同じ会社の携帯電話との通話を無料にし、そして、社が出会っても同じプランを採用する企業との通話も無料に出来ると言うプランで発売し、年々減額をして、10年後に4800円まで下げた価格の提示を行うと言う方法を取ったのである。
ちなみに携帯電話からの対象外の電話は、IP電話と同様の料金。
尚、MNP採用後なので 外回りの担当者の電話番号の変わることも無かった。
 
順風満帆に見えたこのプロジェクト。
関連会社の携帯電話の取り込みで4000程度の契約は既に織り込み済みで、それ以外の契約として3万〜5万の契約がこの一つのプロジェクトにて吸収できる。
MNP開始直後に総てを変更できたら一気にYSBモバイルの名前はトップに踊りだす筈であった。
勿論、シェアから行けば微々たる物であるがMNP契約開始時のスタートとしては一社がスタートダッシュを決めた形になるのである。
書かれた絵は理想的なものであった。
 
「はい、いえそんな いえいえ、勿論音声契約だけでも」
計画途中で重いもがけぬ事態が起きた。一つは携帯電話の性能の問題。
社内での利用を考えると、Wifiで通話できる時間を伸ばす必要がある。
携帯電話やPDAでWifiを使ったことのある人なら判ると思いますが、無線LANはバッテリー食いなデバイスである。
インターフェースや入力が通常の携帯電話と同様なNE60は早くからスタンバイされたが、Wifiを共用するとなるとバッテリーの持続時間が心もとない。
一日中事務所と外とを行き来するような人のために用意されたデバイスではないのである。
そして、NE61は後発で企業内のデータ通信を賄うために登場させるべく計画されたデバイスであったがこちらを前倒しで導入する必要性が出てきたのである。
NAKIAにとってフルキーのデバイスの日本語版の発売は経験が無く、その為の変更も用意されていない。実際、発表時に登場した機器は日本語入力がテンキー入力しか出来ない状態だったのである。
もともと、MNPに間に合わせるデバイスでなかったのであるから当然である。
もしものためにローミングする為のNT&Tの特殊なW−CDMA規格への対応の問題も残っていた。
そして、重くのしかかったのが生産の問題。
いきなり、機種が変わって数万台の要求が出ても生産が間に合うはずも無く 早くからMNP当日には間に合わないとの予測が立った。
 
MNP直前に、予想に反して一般消費者向けの広告を大々的に打つことが決定した。
苦肉の策である。
その為に急遽作られた料金プラン。
MNPのスタートダッシュ終了後に打ち出すはずだった料金プランは来年どのもの。
煮詰めもすまないうちにリリースすることを余儀なくされた。
テレビCMも、予定されたCMにフリップやオーバーレイで処理した作りつけたようなものではあったが、キャッチフレーズの斬新さにはマスコミ始め多くのユーザーが飛びついた。
法人の契約にも、代替機の導入で当面のけりは付いたが、NAKIA社との溝は深く残る結果になってしまった。
 
MNP当日。
数万件の契約を小分けにして登録してゆく。
最初の数時間で事件は起きた。
処理件数をオーバーする契約の処理にコンピューターが耐えられなかったのである。
法人の契約を一気に処理した瞬間コンピューターが止まってしまう。
MNP利用の流入が多すぎるために処理不能になった。
システム担当者を含め関係者は全員そう思った。
しかし、効きすぎた広告のために新しいプランに変更する今までのユーザーの為の処理に煮詰め不足があったためのシステムトラブルであった。
改めてMNPの処理ではなく、内部処理の問題であることを発表せざる得ない結果になった。
その数日間、大口企業の移転処理を行うことも出来ず大きな問題を発生することになってしまった。
 
11月半ば、システムの安定をまって一月遅れで大手企業のMNP移行が完了した。
残されたものは比較的安価な企業との通話契約と時を同じくして発生したIP電話のトラブルと信用できないシステムへの二つのファクターで大きく導入が先送りにされた IP電話との連動と ビジネスに利用するはずだった為に開発された日本語化されたNAKIAのNE61だった。
11月度の加入者数の内訳では、NT&Tモバイルは創業初めてユーザーを減らしDDI モバイルの一人勝ちとなった。
表面的にはそのこと自身だけが目立っているのですが、その内訳として 大口ユーザーのNT&Tモバイルから YSBモバイルへの流失劇があったことは伝えられていない。
3G契約でありながら、パケット通信の契約が伸びていないことは当初発表されないぷりペイドの契約数の伸びであると伝えられていたが他に原因があったことが証明された結果になった。
 
かけた梯子を下ろされた形になった NAKIAは単独でNE61を発売することとなった。
現在のところ採用保留のまま作られた日本語キーボードと 開発にかけたリソースを少しでも回収するのが使命である。
結果的には大きく予定を崩した今回の計画がもたらしたものは問題の先送りだけとなった。