伊藤探偵事務所の憂鬱3

あわただしそうに人が動く会場 勿論中で働いている人たちは宝石がなくなった事など知らされていない。警備の下見と適当なことを言って中に入った。
なんとなく 本当に探偵になった気分でうれしかった。
「ぷるる」
電話が鳴った。事務所からの電話
「はい、モバイルです」
モバイルはあだ名である。
事務所にはじめて来たとき 道に迷って電話を何度もかけた姿を見てついたあだ名らしいのだが・・・・・よく考えたら 1キロ四方を見渡すカメラで監視しているわけだから実は遊ばれていたようです。

「ぼうや、いい まだ宝石は展示場に運ばれていないの。 その展示場を見に行っても何も無いの わかる〜 ぼく?」
周りで人が見てれば顔色の変化を楽しめたのであろうが 本人としては事務所に帰るのが憂鬱になった。設営中の為か 中は暑く 顔が火照ってきたので出ることにした。

とぼとぼと、重い足を引きずりながら事務所に向かって歩き出した
百貨店を含む繁華街を抜けたところで 旧の商店街の通りに入った。
百貨店周りに出来た店にお客が集まって 古くからやっている商店街の8割以上は閉店している。遠くない未来にショッピングセンターになるべく買収が進んでいてぽつぽつと コインパーキングが並んでいる。
ぷー太郎の知恵で コインパーキングには良く自販機が併設してある それも何故か繁華街でないところの自販機は 安い。たった20円の差と思うかもしれないけど大きな違いだ。あまり有名でないメーカの 見たことも無い清涼飲料水は当たりも外れもあって楽しい。力説するわけではないがお勧めだ。
「まいうコーラ? これなんだ???? デブのためのコーラって?」
いつもは迷うところが今日は良い日だ 一発で決まった。
えーっと、お金を入れようとしたところで車が入ってきた 柄の悪そうな 中が全く見えない車邪魔にならないように自販機の陰に入ったところで車が止まった。
ドアが開いた瞬間 黒ぶちめがね と言うより真っ黒のサングラスをした男が出てきて手を引っ張られ いつの間に来たのか自販機の反対側から出てきた男と一緒に車の中に引き込まれた。声を出さないように顔を押さえられ息が出来ない。暴れる車の中には猿轡をされた女性がいたのだが 勿論そんなものにかまっている余裕は無い。
気を失いそうな状況で、ふと ポケットの異物に気がついた。
うまいタイミングで奥の女性が暴れだし、口を押さえるのに手一杯な男達のおかげで片手が開いた瞬間 駄目元でピンを抜いたらポケットから転がり落ちたのは イラン戦争で見た形 「手榴弾!!」口が押さえられているので 声が出ない。勿論 逃げることも出来ない(出来るぐらいなら最初からこんなもの使わない) 思わず目の前に 走馬灯のように今までの人生が・・・・
「バン!!!!!!!!!!!!!」
車のドアが動くような圧力が車の中に広がり 閉まりきってないドアは大きく開いた。
男に頭を押さえられて 耳が押さえられていたにも関わらず 耳が痛くて聞こえない。
体は大きく反応してえびぞった瞬間に力の抜けた男から体が自由になった。
手を振り回し 吹き飛ばされた反対側のドアから飛び出した。
こけながらとにかく車から遠くの方向に向かって走り出して 繁華街のほうに。
追っ手が来ないのは幸いだった。後で考えればさびしいとはいえ繁華街の真中で大きな音がすれば誰かが集まってくる。合法的な組織でなければ 追跡どころじゃなかっただろうし 目をつぶれと言われたって事は すごく眩しい光が出たことは想像できたから追っかけられるはずは無かったのである。
恐らく、気が遠くなる距離を走ったはずなのであるが 二ブロック程動いただけであった。
意識が返ってきた瞬間交差点で座り込んでしまった。
「怪我は・・・・・」
体中を見回した左手には、猿轡をした女性の手をしっかり握っていた。
勿論、手だけでは無く体もついていた。それも結構魅力的な・・・・・
「だれだ、これは」
それより何なんなんだ?!?!