伊藤探偵事務所の憂鬱5

安楽いすの居心地が悪いのは未だなれていないだけではない。
ただ、わずかな救いは震えているのが判らないことである。
口の中が乾いて いくら水を飲んでも癒されない。逃げ出したいのは山々だけど 一人になったら前のように運良く逃げきれるとは思えない。
どう考えても警察に相談できる話ではないし
何より、不思議なことにここにいるのが一番安心できるような気がした。

「こんこん」
悪夢の到着だ
「こちらは 伊藤探偵事務所でございますか?」
丁寧な口調で入ってきたのは一人の老紳士である
二人の付添い人は 明らかに格闘技経験者であろう 屈強な感じの二人であり恐らく何らかの武器を携えているのであろう 寒くも無いのに分厚い服をきて体の線を隠している。
案内もしないのに中に入ってきて 私の前に立った。

「ここにきた用件はお分かりだとおもいます 彼女をお返しいただきたい。」
静かな口調で不気味に変わらない表情で話した
「そして、今回の件からは手を引いていただきたい」
両脇の男が持ってきたスーツケースを机の上に置いた。開けたスーツケースの中にはいっぱいの札束が詰められていた。

これだけのやり取りは こちらの意思を無視して一方的に進められた。
いや、正確には声も出ない状態で一切身動きが取れないだけだった。
相手がこちらに回答を求めてきているのではあるが・・・・どうしよう。

こちらの回答を待たずに 二人の男が勝手に事務所の中を捜し始めようとした瞬間 世界が回った。
arieさんが僕の座っている椅子を蹴飛ばし 僕のいすは後ろを向いた。

「困りますわね 仕事の依頼は受付の私を通していただかないと」
いぶかしそうなめで老紳士の視線が なめるように足元からarieさんの姿をみて
「お嬢ちゃん じゃあ副所長にお繋ぎください」
あきらかに馬鹿にした口調でいった
「あらうれしい お嬢ちゃんだって」
ちっともうれしそうに無い表情でいった
「でも、見ていただければ判りますよね 副所長はお受けにならないとおっしゃってますわ」
そんなこと言ってない・・・ でも声が出なかった。部屋中の空気が冷たく固まっているようで きっと口を開いても声は出なかったと思う。

「お連れの方もお急ぎの用事があるようですので 今日のところはお帰りになったらいかがですか?」
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も一度 椅子を蹴られて前をむいたら二人の男が倒れていた。
怒りに震える顔で何か言いかけた紳士が 息を落ち着けて
「そのようですね、 では 改めて依頼に参ります 今日はご挨拶と言うことで」
こともなげに 二人の男の頭を蹴り飛ばして目を覚させて帰ろうとする老紳士に

「副所長が お忘れ物ですって」
arieさんが引き止めるように言った
ぬりかべさんが僕の机の上に 2丁の拳銃を並べた

「これは申し訳ない 是非 次回お会いするのを楽しみにしております」
再び不気味な笑顔に戻った老紳士が 帰り際に丁寧に挨拶をして帰っていった。

「さあ、今日のイベントは終わったわよ みんな寝ましょう!!」
メンバーは奥に消えていった
僕は勿論、椅子から立つことはとっくの昔に出来なくなってて・・・・

どうすんだよ?!