伊藤探偵事務所の憂鬱9

「兄ちゃん いつものりんごパフェか?」
どうも、僕が 特定の性別の人間から好かれないのは環境が悪いのだと自覚した
「ねえちゃんは なにする?」
もっともデートに向かない店につれて来たのが悪いのかもしれないと 自信がなくなってきた。
この店は「なにわ屋」事務所から一番近い喫茶店
いや、定職屋さん いや、とにかく何でも屋で安い うまい 量が多い 口が悪いと4拍子そろったいい店である。 普段は
遠くに出るのが恐ろしいのと 舞い上がっていたので他の店が思いつかなかった というより他の店まで行く間の 間が持たなかった。

「からん」
音がして人が入ってきた
「あら、お初のお客はん ずずーっと一番奥まで トイレの前までどうぞ」
いつもこの調子である

「コーヒーで」
とにかく りんごパフェよりもまともと思えるものを頼んだ
「おねえちゃんは いつものりんごパフェでええんか」
逃げ出したい気分だ
「それを、お願いします 二つ」
にこっ と笑いながら その女性が注文をした

「さすがに お噂に聞きました 伊藤探偵事務所の方ですね」
もう駄目だ・・・・ このおばさんのせいだ
「私が数日前から ここに来ていたのをご存知だったみたいですね」
へっ、そういえば彼女には 初めてさんとは言わなかったし いつものりんごパフェって
「もう結構ですよ 見つかってるんですから それに そんな奥じゃここの話も聞こえないでしょ」
彼女が行ったので、今 隅っこに通された男が何も言わずにゆっくり出て行った。
「さて、これでゆっくりお話ができますわね」

「あの・・」
何がなんだか 取りあえず状況を確認しようと口を開いた
「にいちゃん いつもの出来たで!!」
話に わざと割り込むように りんごパフェが二つ運ばれてきた
甘いりんごの香りが漂う シャーベットのパフェで店の汚さからは想像できない繊細な味である。
「コーヒーは?」
コーヒーが遅かったので聞いたら
「なにゆうてんの ねえちゃんがかっこつけてんのかっこ悪いゆーて 頼んでくれたん判らんか そんなこっちゃからもてへんのや」
いちいち傷口を広げるようなことをいうおばちゃんや(大阪弁が移ってきた)

「くっくっくく、ごめんなさい おかしくって」
京都で売っている 手まりの中に鈴の入ったおもちゃを転がしたように ころころと音を立てるように笑った 正直 可愛い
「私は KAWA そう呼ばれているの。」
明るく言った
「ぼくは、・・・」

「にいちゃん はよたべんと溶けんで にいちゃんが食べんとねえちゃんも食べられへんやん」
またさえぎられた

「とにかく食べましょう」
うまく一言目が出なかったぼくは 気が楽になって言った
パフェからは いつもの味がした。高ぶってた気持ちが 落ち着いてきた。
「ところで・・・」

「にいちゃん 食べてる最中にしゃべったら行儀悪い」
どうも遊ばれているようだ なんなんだ全く