伊藤探偵事務所の憂鬱11

修羅場と言われる喫茶店をでて・・・・・
表に出たところでさっき中に入ってきたけれども表に出て行った男性が表にしゃがみこんでいる。
「あなたのワンちゃんが ちょっとおいたしたから “めっ”てしたらいじけちゃって・・・」
Arieさんが とにかく見た目だけすまなさそうに言った。
見た目だけだと思っているのは僕だけかもしれないけど きっと見た目だけである。
「うちの子 育ちが良いんで ごめんなさいね」
もう一人 そう思っている人がいるようだ。
補足させてもらえるなら、口から泡を吹いて天を仰いでいる姿はいじけているワンちゃんというよりは ボクシングの試合でKoされたボクサーのようだった。
思わず、周りを見回して ぬりかべさんを探したが もう帰ったのかいなかった。

「後でお迎えに来ますからおとなしくしとくんでちゅヨ」
ほんとに いじけた犬に接するように口から出た泡をハンカチでふき取って ハンカチと一緒にその男を置き去りにして歩き出した。
「ワンちゃんは なんのおいたをしました?」
KAWAさんは 少し引きつった(と、思ったのはきっと僕だけだと思う 見た目には普通の笑顔だし きっとarieさんは少しでないことを知っていたから)笑顔でそう言った。
「ごめんなさいね、番犬としては優秀だと思うんですけど お店に入ろうとしたら 鳴きだして入れてくれなかったの。 わたし 怖くて・・・・」
悪魔だ・・・

聞いているのか、聞いていないのか 相変わらず僕の腕にしがみついてKAWAさんが言った。
「あたし猫 だいっ好きなの!! あたしが抱いてみて すっごく相性が良かったらどうしよう? きっと離れられなくなっちゃう」
今のやり取りを見て 尚 可愛い仕草に 僕は動けなかった。
「気に入ってもらえるかしら?」
arieさんは 事務所に向かって歩き出した。
少し遅れてKAWAさんと僕が続いた。歩きにくい体勢ではあったが決していやな気分はしなかった。

「ねえ、猫ちゃんはなにいろ?」 「あなたは 好きなの? 私より?」 「お散歩は 連れて行ったの?」 
よっぽど猫が好きなのか いろいろと聞かれた。一つだけ気になるのは 事務所に猫なんて? 屋根裏に住まっている 可愛いいとか 俊敏なとかとは はるか無関係な猫がいるぐらい。
どの質問への返事も とても出来なくて ニコニコとして返事を避けていても

「ねえ、猫ちゃんの首飾りはあった?」 「猫ちゃんの お部屋はどんな感じ?」
困ったぼくは
「それよりも、今日の夜は一緒に晩御飯でもどう? 猫も連れてくるから表で一緒に
出張料理の イギリス料理のレストランがあるから 表で食べるご飯もおいしいよ」
昨日、新聞の折り込み広告で見たレストランの事を思い出した。イギリス料理ってなんだかわからなかったけど スコーンとフイッシュチップのような料理で 出張料理にしては2万円ぐらいの お手ごろ価格だった。

「二人とも仲良しだったのね お邪魔しちゃったかしら?」
彼女の返事を聞く前に 遅いので待っていたarieさんが割り込んだ。
「彼女門限が厳しいので 先に家に電話しておいたほうがいいわよ」
始めましてなのに どうしてそんなことを知っているんだろう? きっと、お嬢様育ちなのが判ったのか?
彼女が電話をしている
「そうなのー、イギリス料理のディナーに誘われちゃって」
電話をしている彼女、電話が終わって沈んだ顔でこっちへ帰ってきた。
「ごめんなさい、お家に帰らなきゃ駄目になっちゃった すっごく残念だけど」
KAWAさんが言った。
すでに、命がけの事や 西下さんの言った事なんか頭の中に無かった。

「もし、来れるようだったら来て下さいね。 今夜は ずっと待ってますから。
 猫ちゃんもきっと残念がりますよ」
かすかな希望をもって KAWAさんに声をかけたら とたんに KAWAさんの表情が 少し怒った表情になった。
「今日は、パフェをご馳走になってありがとう。こられないと思うけど 一晩中あなたのことを考えていますわ。あした 又来ます 猫ちゃんによろしく言っといてね。」
ほっぺに キスをされて そのまま舞い上がって天に届くような状態で KAWAさんと別れて事務所に入った。
事務所に入ったとたん 堰を切ったように aireさんが笑い出して 他の二人が笑い出した それも、事務所中響き渡るような勢いで。
意味は理解できないようではあるが whocaさんも笑っている。
得に、こっちを指差しながら笑うarieさん
「化粧が落ちますよ」
僕の出来る 最高の抵抗だった。