伊藤探偵事務所の憂鬱12

笑いがようやく収まったころに 機械の森の主が中から出てきて声をかけてくれた。
「アラブの歴史とヨーロッパの関係は詳しいか?」
自慢じゃないが、成績は何時も中の下 それも、必修科目中心で それ以外はまったく駄目。これというのも中学時代の先生が 年寄りで聞こえないような小さな声で授業をしたから・・・まあ、それはどうでもいい
「いいえ、全くといって アラブは石油と湾岸戦争ぐらいしか」
頭を抱えながら 話が始まった。

「アラブの歴史の中では 略奪と占領が繰り返されておきる。元来、農作物や動物の資源の豊富な土地柄でない(もちろん例外もあるが)。
貿易の通過点であり、もっとも難所と言われるべき場所にあるため 貿易の拠点として オアシスのある町は発展した。
そして、国が出来たのではあるが 少ない資源を奪い合うから 盗賊なのか国なのか分からない ならず者国家もたくさんあった。
国の単位が中世から近代に向かってだんだん大きくなってヨーロッパやトルコの支配をうけ現代に至るわけであるが。
貿易の拠点として重要だった時代から、現在は石油の産出国として有名になり 国としては独立したのではあるが 宗教の違い、それから今までの文化の延長線上にある 闘争の歴史は 彼らの対立を今もって続けさせている。
最初は、剣で切りあい それから銃で打ち合う。現在では ミサイルや戦車にいたるまで 石油で得た資金を元に最も大きな市場になっている。
その市場に大量に商品を売りたいのは全ての先進国なのではあるが
東西問題や、宗教問題等の関係で リスクの多い商売でもある。
各国は、武器を手に入れるために 様々な工作を行う。
例えば支配下にある小国の実質上の支配権を譲ったり・・・・

ここにいるwhocaさんの国は アラブの小国で そういう取引の中で イギリスの保護と言う名の支配を受けている。
しかし、かつての大国の権威はもう無く 実質上は関係国のひとつでしかない。

今回、君が会ってきた KAWAさんという女性 見かけは普通の女性ですが 実は 公務員で 表向きに解決できないことを中心に力任せに解決する特技を持った組織の人なんだ
ここまで言ったら分かったと思うんだが 勿論 近づいてきたのも偶然ではないし 特別恋愛感情があるわけではない」

と、いうことは 表で倒れていた人もスパイさん?
西下さんは続けた
「分かったと思うが、今回の宝石展示はその小国より借りた宝石がメインで whocaさんもその大事なゲストである。
それを、さらわれたので彼女たちは 無理やりにでも引き取りに来たんだ」
なるほど、じゃあ あの猫がどうしたとか 言っていたのは彼女のことなんだ

「ここからは あたしの方が説明に向いてるわ」
arieさんが割って入った
「ボーヤが 彼女が “猫をよこせって”言ったり “大丈夫か”と言ってるのに とぼけてたし 何より “一緒に出張のイギリス料理”って言ったから イギリスの情報機関に告げ口して欲しくなかったら 出直しといでって言うもんだから見てて ひやひやしちゃった」
そういう意味だったのか・・・・
「その上 厚かましくも “今夜はずっと待ってますからって”って あたしじゃ怖くて言えないわ 一晩中警護してろって」
それで、彼女の顔色が変わったんだ

「まあ、相手も一晩中警護するってお約束してくれたし ぼうや ケータリングのイギリス料理を嫌がらせで注文しようか? おごりでいいわよ」
arieさんがいたずらっ子のような笑顔で言った

「まあ、おかげで今日から安全になったから安心して眠れるね」
西下さんが言って また 機械の中に消えていった。

こらえてた笑いが みんなの中でまた起こった

「明日も来るってよ!!」
arieさん

どうすればいいんだ・・・・