伊藤探偵事務所の憂鬱 13

夜になると 事務所はさびしくなる
明日のことを考えると 目がさえて眠れなくなる
きっと、謝っても許してくれないことは判っている・・・・
KAWAさんの事がじゃなく 誤解されたままって言うのがなんか 引っかかって うまく言えないけど 眠くならない。
満月の月が 窓から光を差し込んでいるからかもしれない。

月の光を何かが遮った。
「あっ、ぬりかべさん」
何も言わずにソファーの頭のところに座った。
暖めたコップには レモンティー 少し香るお酒の匂いは ラム酒の香り・・・
「飲むと 落ち着ける」
ぬりかべさんが言った もしかしたら・・・・声を聞くのは何日ぶりだろう?

「気にすることは無い」
考えていることが判っているのか やさしくそう言った・

「話す内容が変わっていたとしても 結果は同じだった」
電気が消えているのでいないと思っていた機械の中から声がした。
「言ったろう、彼女とお友達になるしか命を落とさない方法は無いって お前がやらなければ誰かがやったことだ」
恐らく その役目は・・・・・・

「それに、彼女はお前のこと嫌いじゃなさそうだった 道端に転がってる男がいただろ。仕事だけならああいう扱いを受けたはずだ そうじゃなかっただろ」

「男同士が 電気も付けずに こそこそ話をしてるって すっごく気持ち悪い」
電気がいきなりついて arieさんが立っていた。
「坊やには 荷が重い相手よ」

arieさんの 毒舌がないせいか 少し空気が重かった。

「#%――――――――」
空気で頭が固定されて 耳の穴から入ってくる音が直接脳を揺らしているような曲が
何の楽器も持っていないはずなのに 3種か5種ぐらいの楽器が一緒に鳴っているような錯覚を覚えるような歌声だ。
空気が 固まって そして 彼女の体温でゆっくり溶けてゆくようだ。

溶けた 空気が 部屋に床から溜まっていって 風呂の中に使っているように静かに体の下から満たされてゆくようで・・・
たまった空気が 水面のようにゆれて 首筋のあたりを動いている。
気が付いたら 両腕には寒いときに出るように ぷつぷつと泡立っていた。
何故か 涙が出て 行き詰まった思いが涙に乗って流れていて 涙が乾いたころには気分が楽になっていた。

「さあ、寝ましょう これで明日は心配しなくて良くなったでしょ KAWAさんにも謝れたし」
arieさんが言ったが 意味が判らなかった。
「えっ?」

窓際に差し込んである ペン立ての中から一本のペンを取り出して 口に近づけて
「猫ちゃんは 元気だから安心して寝なさい」
言い終わった後に ペンを引き抜くと 中から小さな電池が二個落ちた。

あっ、やっぱりこの人たちは・・・・・・
ただ、テーブルの上には 3つの紅茶が 違うお酒の香りを立てて置いてあった。