伊藤探偵事務所の憂鬱 14

いやでも朝が来る。
朝が来れば 活動しなければいけない 昨日の晩には全てが解決したはずなのに 朝になると気が重い。
「準備が出来たら 行くぞ」
目が覚めたことに気がついたのか 機械の奥から声が聞こえた
「どこに?」
思いもがけない質問に戸惑いながら聞いた
「お前が聞いてきた依頼はほっといて良いのか?」
そういえば 宝石を捜すことは仕事だった。忘れたわけではないが あまりにもいろんな事がありすぎて何がおきたかすら分からなくなっている。
だが、お金をもらって仕事をしている以上 働かなければいけない。任された以上。
「表に出ても安全ですか?」
仕事なのは判っているけど 自分の命が一番大事だ 思わず聞いてしまった。
「表に出たら 可愛い女の子が待ってるから大丈夫さ」
嫌なことを思い出させてくれた。

表に出たとたん 後ろから誰かに目隠しをされた
「だーれだ」
かわいい 聞き覚えのある声だった。
「KAWAさんですね」

「あったりー」
元気いっぱいでやってきた
「今日も にゃんこちゃん元気―?」
昨日と同じ質問だが 今日はまともに答えられる
「元気ですよ 昨日同様」

「わんちゃんはどうなりました?」
あっ、つい勢いで言ってしまった いやみにしか聞こえないだろう

「うん、すっごく元気 今日のデートはどこに連れて行ってくれる?」
気にもしていないように 明るい笑顔は昨日と変わりないものだった
「百貨店に お買い物です 保護者同伴で」
西下さんが代わりに答えてくれた。

百貨店の中はあまり繁盛しているとは言えなかった。
最近の傾向だろうか おそらく今日に限らずそうであろう。確かに 起死回生の一発を決めなければ苦しい台所がよくわかる。
勿論、盗まれた宝石のことは話されてないから静かな状態である。

取りあえず、何の手がかりどころか捜査にも入っていない状態なので 担当者へのアポをお願いした。
なぜか、全てを知っていると思われる西下さんは 何の指示も出してくれず
「副所長に俺が指示を出してたらおかしいだろ」
の一言で うれしそうに 後ろをついてくるだけだった。
勿論 KAWAさんは本音はどうあれ デートの最中の雰囲気で一緒についてきた。
まもなく 中へ通され一応の説明は受けた。明らかに 百貨店の中に入ってからの反抗であるし 手際があまりにも良いので中の者の犯行が疑わしい。
だが、失踪した社員の事を聞いたら 全く関係の無い部署で同じ会社とはいえ情報を手に入れる事が難しい部署であり どう考えても関係の無いような気がする。なぜこんな依頼が? そちらのほうにこそ疑問があった。
「なに、来客中? 来客してる場合か!! どけっ」
“バン”
大きな音を出して ドアが蹴破られるようにして 小柄なだけれども貫禄のある爺さんが顔を真っ赤にして入ってきた。
「しゃ、しゃちょう !!」
担当者が ポップコーンが弾けるほどの勢いで立ち上がった。
部屋の隅で、担当者が社長と呼ばれる人に事情を説明したらしく
「これは、はじめまして せいぜい邪魔をしないように捜査してくれ」
「ああ、もし お前らが見つけてくれたら 1000万が 1億でも出すぞ」
「せいぜい頑張ってくれ 担当者は忙しいので わしとこれで失礼する お茶でも飲んでゆっくりしてくれ」

こちらから一言も告げる間もなく 行ってしまった。
明らかに歓迎されていないし 馬鹿にされているようだ。
少し怒って
「行きましょう !!」と言ったのだが
担当者の部下らしき人がやってきてお詫びに来た事と
KAWAさんの
「あたし マロンケーキが食べたい この百貨店のおいしいって有名なの !!」
の催促で 担当者の部下は表に出て行った
ケーキですか・・・・ やはり女性は奥深い・・・・