伊藤探偵事務所の憂鬱20

「どういうつもりだ!!」
総務部長が怒鳴り込んできた。
女性二人は パティシエもとい ケーキに夢中になっていて話を聞いていない。
勿論、ぬりかべさんも
西下さんはいない。
当然、僕のところにやってきた
女性に関わって 無為な時間を過ごす愚かさに気がついたこと、もう飾る必要の無いぐらい怒っていることが伺える・・・・やっぱり 僕なんだ
「はあ、どういうつもりかといわれても 僕は 神保さんにお会いしにここへ来ただけで他意はありません。 もう契約の件は済みましたのでお話しすることはないかと思いますが」
相手の勢いに負けないように 出来る限り理路整然と話したつもりだった。
「なんだと、この野郎」
袖口をつかみかかって来て 殴りかかろうとした瞬間
「もういい、君には失望させてもらった もう一度 平からやり直したまえ」
明らかに総務部長より若いながら 威圧的な声で言い放った。
総務部長は、一瞬で蒼白な顔色になり そのまま膝から崩れ落ちた。
どこからとも無く現れた 男たちに引きずられるようにして連れ出された。
まるで浮浪者を放り出すような乱暴さであった。

「これは、始めまして 私は 副社長の神保と申します もっとも 良くご存知のようですが」
そういえば、パティシエさんの名前は“神林”さん “神保”さんではない・・・
「では、お聞かせいただけますか なぜ私までたどり着かれたかと 私を呼び出された訳を」
勿論、名前を間違えて 名前を間違えて呼び出したとは言えない。
「最初の問いは 企業機密でお話できません 二つ目に関しては ご依頼いただいた内容を一方的に断られた事情をご説明いただきたい。単細胞なブタには荷が重すぎたみたいだから」
食べられなくなったケーキを フォークに刺して ぬりかべさんの口の中に押し込みながらarieさんが返事をした。
振り返ったarieさんも、いつの間にか真っ赤なルージュが引きなおしてあった。
「大体失礼よ、ブタを人の対応に充てるなんて」
失礼極まりない台詞を投げつけたが相手も先程までの部長さんとは役者が違うようで
「それは失礼、私は 人までは進化していると自負しているのですがいかがですか?」
副社長の回答に
「後ろに見え隠れしている尻尾をうまく隠せるようになったら 人間として認めてあげるわ。」
毒舌が止まらない。
「あなたにも2枚のしたと 7本の尻尾が出ているので 1本ぐらいは認めていただけると思っていたのですが? 残念です」
相手も負けていない。

いつの間にか、パティシエは退場し ワゴンのケーキはひとつ残らず無くなっていた。
おかげで ガラス越しに見ていた人たちがいなくなって本日閉店の札のかかった店は静かになった。

「お座りになったら尻尾は隠れましてよ」
arieさんが言ったので 副社長は僕の隣に座った。
「いやー、ユニークな部下をお持ちで」
副社長とarieさんはいい勝負をしている 出来たらその仲間に僕を入れないで欲しい。
「おたくの ブタには負けますわよ」
流石にしつこいので 辺りが沈黙した

「ところで、キャンセルの理由をお聞かせ願えませんか?」
重い空気に耐えられなくなって 僕は口を開いた
「それは、私がお聞かせ頂きたい。何故、会社から中止命令が出たかと言う事を あなた方が無関係とは考えられない 出来たら 私のミスを教えていただきたいぐらいです」
副社長の意外な言葉
「あなたのミスは、誰でもいいはずの探偵への依頼を 伊藤探偵事務所に依頼したこと そして 運悪く 副所長がこの事件に関わったことよ」
arieさん
「そして、なによりあたしを怒らせたことよ 平和的にキャンセルさせてあげるのは 副所長の望みだからよ これ以上くちばしを突っ込むようだったらあなたの人生が終わってしまうことを教えてあげるために呼んだの」
相手は黙ってしまった。決して僕の望んだ結末ではないが 僕のせいになっている。
「けーき おかわり!!」
KAWAさんの声だけが 店に響いた