伊藤探偵事務所の憂鬱19

「arieさん」
西下さんが呼び止めた。
何か少し話した後 arieさんが二人の間に割り入った。
「ご依頼を キャンセルする件 改めてお受けします」
にこっと 会釈をして頭を少し下げた。

急なことに驚きながら うれしそうな顔で総務部長が言った
「いやいや、解っていただいて幸いです。では、お約束のキャンセル料を・・・」
arieさんと総務部長の間に割り入って
「ケ〜〜〜〜〜キ !!」
すでに ほっぺたが ぷっくりふくれて 赤くなってスモモをくっ付けたような状態。
上目遣いに kawaさんが睨み付けた。

「はい、店中のケーキ全てでも」
気迫に押された 総務部長はいった

一番可愛い(と僕が思った)受付の女の子の案内で 今度はケーキを食べにケーキ店に入った。KAWAさんの機嫌がとても直りそうに無かったから。
店に入っても怒っているKAWAさん。ワゴンいっぱいのケーキが目の前に出て来て
「きゃー !!」
と叫んで 一瞬で機嫌が直った。
受付の女性も安心して帰っていった。
KAWAさんはともかく 意外なことに ぬりかべさんも姿に似合わずケーキが好きなようで ワゴンの棚の一枚を既に食べ尽くそうとしている。
あの体を維持するためには相当なカロリーがいるのでしょう。
「あーっ、チョコはあたしの 食べちゃだめー!」
KAWAさんのウエストのサイズと変わらないような太さの腕を押さえている。

私もarieさんも 3つは食べられない。
arieさんの手には、ケーキフォークが人差し指と中指の中でゆれていていかにも手持ち無沙汰な雰囲気が伺える。
西下さんは・・・・
そういえばさっきからいない。
店の中にはさすがに このグループと一緒に甘い気分に浸れる度胸のある人はいないが、大食い選手権を見るような目で 店の外にはガラスの壁を囲うように人だかりが出来ていて動物園の動物のように見世物になった気分である。
恐らく 後一時間もすれば 店中のケーキを食べ尽くしこの集まりは終わるのだろうが この状況がarieさんを 尚、いらだたせる。
「ぼうや、そろそろ あの犬の飼い主だったらそろそろ黙らせて!! チワワも小さいけどうるさいのよね」

「KAWAさん そろそろ・・・」
取りあえず止めてみた
「じゃばじないで いそばしいんだから」
口にケーキをほお張ったまま しゃべる。
口からはみ出した フルーツがアクセントになるが口の周り中 白くクリームに囲まれている。
アメリカ人のように 両手を上げてだめだった事をarieさんに伝えると。
arieさんもあきらめたように首をうなだれて そのままソファーに倒れこんだ。

「パティシエの 神林です ケーキはいかがですか?」
短い帽子ではあるが フランス料理のシェフのような格好をした男が出てきた。
オレンジ色のチーフが いかにもだが妙にかっこいい顔がいやみっぽい。
大体顔の良い男が 同性より好かれるわけが無い(完全にひがみかもしれない)

「とってもおいしいです どうやったらこんなにおいしいケーキが出来るのかしら すてきです」
いつ引きなおしたのか 白いクリームではなくピンクの口紅がつやつや光る口から声が出ていた。

「もう一つ頂きたいんですが、どれがお勧めですか?」
arieさんまで・・・・・

「おいしいコーヒーを一つ ブラックでお願いできますか」
今出来る最大の嫌味だった。