伊藤探偵事務所の憂鬱 41

宝石展が始まった。
事件が一部明るみに出て 「マスコミは謎のテロリストの狙う宝石」とか「百貨店分裂の危機 国際的御家問題」とか 部分的に見れば正しいが 見当はずれなタイトルを面白おかしくつけて騒ぎ立てた。
それに輪をかけて 宝石の英雄物語や何より歌うように話すwhocaさんの言葉と 抜けるような肌の白さ、神秘的な美貌が評判を呼び日本中知らない人がいない 大騒ぎの展示会となった。
一部のマニアの方には、大きな宝石をつけて ウルトラセブンの目を見るようなつり上がった古風なめがねで(多分、変装だと思う) 本当に翻訳しているのかそれとも勝手に喋っているのか ずばずばと言いたいことを言う姿に人気があるそうだ。
警備のためとは言いながら、ストレスを解消しているようにしか見えない。

しかし、arieさんの唯一の誤算は、神官として一日中人の話を聞くのが日課のwhocaさんが日本でも同じ行動を取ったことで 通訳のarieさんは一日中喋り続け無ければいけなかった。
僕は警備室で、モニターカメラとにらめっこと言いながら 日がな一日昼寝状態。
お手伝いの、KAWAさんは 入り口で見張ると言い張って 入り口のケーキ店で一日中見張っているそうだ(百貨店の社長と パティシエは気の毒に・・・・・)
西下さんは一日中 やはり事務所に閉じこもっている。

一日が終わって 事務所へ帰ってきた。
arieさん:「もう、通訳しない」
少し枯れかけた声で ソファーに倒れこみながら言った。
西下さん:「昼間は、あれだけの人を煽動したんだから安全だって言っといたのに。目立ちたがるからそういうことになる。」
arieさん:「悪かったわね それより事務所で一日サボってたんだからわかったの!!」
行き先の無い怒りを煽られて 怒るわけにもいかず強い口調で言った。
やはり名コンビ。
西下さん:「金庫は大丈夫だね」
arieさん:「当てにはならないけど 警察も張ってるしこの状態で盗まれることは無いでしょ。ルパンでも来なけりゃね」
西下さん:「じゃあ、whocaさんに聞いてくれる “闇の王冠はどこって”」
“闇の王冠”ってなんだろう?
arieさん:「もう通訳は嫌なんだけど」
KAWAさん:「あたしも聞きたいわ その話」
時間が無くなったと言ってお土産に持って帰ったケーキを食べる手を止めて言った。
その仕草から大事なことであることは理解できた。
arieさんが 通訳をしてwhocaさんに話し掛けた。
木の椅子に背筋を伸ばして座っているwhocaさんが驚いた表情で答えた。
arieさん:「それは言えないって それよりそれが何か知ってるんですか?って あたしにも解らないから聞きたいわ」
珍しく事務所中にまじめな空気が流れた。
西下さん:「本当は、whocaさんに話して欲しいのだが 所長の命が掛かっている理由のようだから 話せないのだったら協力できそうに無いと話してくれますか?」
arieさん:「西下君 あなたの話の正しい確率は?」
西下さん:「60%って所かな、もっと確率を上げたいけどここから先は時間が掛かりすぎる。推測も含んでいるが 本人がいるから聞いたほうが早そうだからね」
arieさんが少し考え込んだ。
KAWAさん:「あたしのところでも理由が解らないので具体的な対策が立ってないのよ」
「本当に、所長の命が掛かっています? 西下さん」
西下さん:「多分 すでに死にかけていると思う。まあ、あの人のことだから一人ならどこからでも帰ってくるとは思うけど」
冗談交じりのいつもの口調だが 空気の重さは変わらなかった。
「whocaさん、教えてください」
反射的に whocaさんの両肩を捕まえて言った。
arieさん:「やめなさい、痛がっているでしょ それに神官は男に触られることを許されてないの」
arieさんに、引き葉が割れた。
arieさん:「でも、それしか今は方法が無いようね」
arieさんはwhocaさんと話を始めた。
いつも歌うように聞こえるwhocaさんの声なのに、今日は 所々で止まるので余計不安になった。
ぬりかべさんがコーヒーをみんなに入れてくれた。