伊藤探偵事務所の憂鬱 48

勿論秘密裏な行動であった。
各人が目立ちすぎることが問題ではあった。しかし・・・・良く考えてみたらこんな馬鹿げた話を報告書に書いたエージェントがいれば信じるほうが可笑しいが。
とにもかくにも、すきま風こそ無いもののぎすぎすと椅子や壁に取り付けられたものが鳴っている。
普通の飛行機であれば乗ったこともあるが こういうのは初めてだ。というよりは二度と経験したくないものである。

arieさん:「安普請ね」
西下さん:「ただで乗せてもらって文句を言ってはいけませんよ arieさん」
西下さんが・・・・西下さんは日本でお留守番のはずなのに。
arieさん:「飛行機の中で通信機器を使うと、飛行機の計器に障害が出るからいけませんって教えてもらわなかった 綺麗で若いスチュワーデスさんに」
なるほど、無線で通信してきたんだ。
西下さん:「一人 留守番ですので解りませんでした」
arieさん:「それよりあたしに逆らいたくてわざわざ割り込んできたの?」
西下さん:「さすがに偵察機には 人の形のまま乗り込むことが出来なかったので トルコ空軍基地で荷物になってもらいます。その了解を頂こうとarieさんに」
arieさん:「他に方法が無いのね、時間は」
西下さん:「アメリカ人が手間取らなければ10分少々」
arieさん:「ぎりぎりね、まあ睡眠薬でも貰って寝ているからいいわ」
西下さん:「他に方法が無かったもので 後の用意は出来ています 他に質問は?」
KAWAさん:「機内食が無いんだけど」
西下さん:「着いたらちゃんと用意してありますよ」
KAWAさん:「やった〜」
西下さん:「では、快適な空の旅を」

数時間後、飛行機は空港に到着した。
出迎えが少なかったことでarieさんが臍を曲げたこと以外は順調に基地に入った。
だてに かぼちゃが用意されていたわけではなく降りるときはハロウィンの格好で降り立った。アメリカ流の冗談と トルコ空軍の人たちの目には映っただろう。
長い食事時間の後、作戦の説明があった。
そのときに恐らくたった4人の食事が外から見た人には「ハロウィンパーティ」に映っただろう事は想像に難しくない量が運び込まれた事は言うことも無い。
トルコには、想像を越える甘さの砂糖菓子がたくさんあった事も食事の量をふやした一因になっていた。

作戦内容の説明があった。
ミッションはかなり難しいものになること。
一つには、偵察機であること 低い高度を飛ぶことに関しては何の問題も無いのであるが ジャンプの為のハッチが無い。
エンジン近くの飛行機側面から外に出ることは風に巻き込まれていかに気を失わずに飛び出すか。
二つ目は、例え偵察機とはいえ他国の制空圏までは侵入できない。国境ぎりぎりで降下するので勿論探偵長がいるのが国境近くの山の中だから近くて良いのだが 降り立つ場所としては危険極まりない。その上 衛星の監視から隠れるためにどの方向で どこで降りるかは行って見ないと解らないので場所が選べない。つまり行き当たりばったりで地面の状況なんか考えずに突き落とすから 勝手に着陸しろって事らしい。
崖にでも激突したら最後である。
「大丈夫なんですか」
KAWAさん:「落ちたときに くるくるって回るだけだし 自分で着陸する場所が選べるから大丈夫!」
いとも簡単に言う。
軍関係者は
狂っているという 独特のオーバーアクションで何人もの人たちが止めに来たが。
KAWAさんの「大丈夫」っていうのと、機嫌の悪いarieさんに怒鳴られてみんなすごすごと引き下がっていった。
さすがにそれでも夜に飛ぶのは危険すぎて基地で一晩を過ごすことになった。
トルコの夜は暗く長い。
満天の星空と 軍関係基地とはいえ戒厳令下では無い基地は殆どの人が非番で痛いほどの静けさだった。