伊藤探偵事務所の憂鬱 47

横須賀空軍基地から飛び立つ輸送機には おおよそ不似合いな男が二人と、女性が二人の 二組のカップルが乗っていた。
KAWAさんはいつも、何故か目立つ服装で 今日は黄色とオレンジのひらひらした服を着ているし、arieさんは、ララ・クロフォード まっさお。
僕は、起きたそのままの格好なので ジーンズの上下。唯一、この飛行機の中の住人に溶け込んでいるのがぬりべさんだけだった。
周りには、ボディービルダーの世界大会に迷い込んだかとみまどうばかりの人たちが一杯。髑髏だの錨だの、刺青が青々としている。

軍人A:「今日は、空の上でゲームショーでもやっているのか?それとも、お嬢ちゃんたちはハロウィンの帰りか?」
軍人B:「きっとあの格好で ストリートファイトをしに行くんだぜ!」
軍人C:「男が情けないのは 日本の伝統か?」

口々に勝手な事を言ってその度に大笑いしている。
arieさん:「トリック オア トリート」
大きな声で 威圧的に叫んだ。
一瞬、飛行機の中が静まり返って その後、大爆笑がおきた。
立ち上がってこちらに歩いてきながら天を仰いでいる軍人に、どこから出したのか人の顔の形にくりぬかれたオレンジ色のかぼちゃがぶつかった。
“ごん”
その場にその軍人は倒れた。
再び静まり返った機内。投げつけられて落ちたかぼちゃが揺れて笑っているように見えるのがかえって不気味だった。
ぬりかべさんが頭を掻きながら立ち上がった。
一番最初に飛び掛ってきた男とがっちり両腕で組み合い力比べになった。
ぬりかべさんの笑顔はいつものままだったが 軍人の顔は苦痛に歪んでいた。
力比べではなく 組み合った手を握りつぶしていた。
力の抜けた腕が垂れ下がってきても男の顔は苦痛に表情は崩れていて その雰囲気に他の軍人が動けなかった。
KAWAさん:「お菓子をくれないからご機嫌斜めよ〜」
男たちの前に立ちふさがって ゲームのアイドルが決めのポーズをするような格好で言った
軍人:「アッテンション」
大きな声が、操縦席のほうの軍人からかかった。
どうも隊長格の男のようだ。
隊長:「お前たち、お客様に粗相をするんじゃない」
一瞬で機内の雰囲気が変わり 通路の真ん中に倒れている男と 両手を押さえのた打ち回っている男を除いて席についた。
KAWAさんだけが立ち上がって隊長のところに行って
KAWAさん:「とりっく おあ とりーと?」
かわいく言った。
しばらくたつと、飛行機中からお菓子が集められKAWAさんの前に積まれた。
チョコレートバーとガムだけだったが・・・・
僕は最初から最後まで、ずっと寝たふりをしていた。ぜったい起きてやるもんか。
飛行機は、ぎしぎし音を立てながら飛んでいった。

西下さん:「順調に飛び立ちましたね」
西下さんだけは基地に残っていた。現地に入ってしまうと情報がつかめなくなる可能性があるから日本からの連絡をするためらしい。
実際は、裏工作もするのだろうが・・・・
西下さん:「arieさんが着くまで大人しくしてくれていたらいいんだけど・・・」
心配は、的中していた。
結局、エージェントを連れてゆく件は丁重に脅しを持って了解いただいたが ここで問題がおきた。
他国の衛星に撮影される可能性があるので HAWKEYEの大きな機体に隠れて降下するのであるがパラシュートの経験者がぬりかべさんしかいなかったことにこの時点で気がついた。
ここで、副所長の強硬な反対があったが全員に却下されたため もう一人の参加が必要になった。そこで人選されたのが KAWAさんだった。
そこは、副所長の強硬な人選であった。
恐らく何らかの下心があったのであろう事は、そのにやけた顔から伺えた。
ある意味大物かもしれない。生死を賭けた所に行くのにスケベ心をまだ持っているのは・・・・と周囲には思われていたが 実際は、その怖さが判っていないだけだった。
普通の生活をしている人には、戦闘地域にパラシュートで降りる危険性は想像できないものだろうから。
二人一組で飛ぶことになって 持っていける荷物が大幅に制限される為に、秘密兵器や軍事機密のオンパレードの装備となった
最後まで、荷物を決められなかったのはKAWAさんで何よりも持っていける食料の量に制限があるのが我慢できなかったようだ。
KAWAさん:「遠足のおやつは300円までって・・・・小学校以来だわ」
ともあれ、ミッションはスタートすることになった。

取り合えず トルコにある基地まで飛行機は飛んでいった