伊藤探偵事務所の憂鬱 49

闇はその黒きマントを広げ全てを覆い尽くす。
白きもの、黒きもの、正しきもの、誤れしもの
太陽は、全てのものに公平である。故に 全てをあからさまにする。
豊かなもの、貧しきもの
闇は全てに公平である。
その罪すらも公平である。

時々、廻ってくる灯台の灯かりのようなサーチライトの光が基地の外を照らすと光の筋が走る。
あちこちに ぽつぽつ光る灯かりが 空の星と同じように見える。
輸送機の中で、長い時間寝た振りを続けただからだろうか眠たくならない。
きっと、西下さんに見つかったら「寝るのも義務だ」って怒られそうである。
開け放ったドアから漏れる明かりを頼りに表に気晴らしに出た。
地面に座ったら、コンクリートから伝わる感触は冷たく硬かった。
手を空に向けると、自分の手は見えないが、空に一面の星が広がるので 見えないものが星の光を遮り不思議な感触だった。
上下左右手を広げて振り回したり、足を振り回したり 何をやっても暗すぎて見えない。自分が、ここに存在しないかのような気がした。
もしかしたら、自分は感覚だけで 体は存在しない 意識だけの存在かもと疑い、そして 逆に感覚が研ぎ澄まされて 自分の体が膨れて大きなもののように感じられた。
初めて体験する不思議な感覚の虜に いつの間にかなっていた。

突然、うっすら漏れていた明かりが消え あたり一面が闇に包まれた。
「ぅわぁ〜」
思わず声が出たが、声は闇にかき消された。
恐ろしいことに 帰る方向すら判らなくなっていた。
何か、地面を摺りながら近づいてくる音がする。
へび? それとも さそり?
身構えようにも 自分の腕が何処にあるかも見えない。

目の前が、眩いばかりの光に包まれた。
「ばぁ〜」
誰かが叫んだ。大きな声のような気もするし、小さな声のような気もする
男性の声のようでもあり、女性の声のようでもあった
とにかく声の方向も判らなかったが 光の出た方向の反対側に下がろうとして 足がもつれて倒れこんだ。
「きゃっ! いったーい」
あれ? KAWAさんの声
KAWAさん:「なんで、照らした方向に倒れてくるのよ!!」
「はい?」
KAWAさん:「せっかく もばちゃんを脅かそうと思ってこっそり来たのに・・・」
「えっ、そうだったんですか すいません」
KAWAさんが、大きな声でわらった おなかが震えている
KAWAさん:「何で脅かされて笑ってるの?」
「それもそうですね」
KAWAさん:「ところで、その手をそろそろのけてくれない?」
「手ですか?」
ライトに照らされて、自分の体に戻ってきた手は KAWAさんの胸の上にあった。
「すいません」
あわててのけた。おなかが震えて笑うのが判ったんだからKAWAさんに触れてたんだ・
KAWAさん:「次は、絡んだ足をほどいて・・・・」
「はい、すいません」
足を抜いて立ち上がった。
KAWAさん:「いったーい、すりむいちゃった」
「どこですか?」
KAWAさん:「ここ」
指差したところを覗き込んだら KAWAさんのでこピンが飛んできた
KAWAさん:「す〜け〜べ〜」
指差した先は、KAWAさんの太ももだった
楽しそうに笑うKAWAさんが 懐中電灯の光の中に浮かび上がる
KAWAさん:「もう、すぐに信じる」
懐中電灯は 立ててランタンになった。
その周りだけが、薄オレンジ色に光る 光のドームのようなものに包まれた。
KAWAさん:「未だ寝ないの?」
「目がさえちゃって」
KAWAさん:「さては、興奮して寝れないんだ! なぐさめたげようか?」
「冗談はやめてください」
KAWAさん「冗談じゃなかったりして」
ランタンをはさんで二人で座っている。KAWAさんが顔をこちらに向けたら息遣いが聞こえるほど傍にあった。
周りが静かだから、僕の心臓の鼓動がKAWAさんに聞こえないかが心配になった