伊藤探偵事務所の憂鬱 50

KAWAさん:「はい」
KAWAさんが出した手にはお菓子が乗っていた。
KAWAさん:「さっき、ちょっとくすねちゃった」
「ほんとに良く食べますね」
KAWAさん「もばちゃんはたくさん食べる子嫌い?」
「その体のどこに入るのか不思議なだけです」
見ていて胸焼けするとはとても言えない。
しかし、本当に華奢な体に見える。最近の娘はふけて見える子が多いからかもしれないが 15歳と言われても信じちゃいそうなぐらい。
そして折れそうな腰、だけど女性らしい質感のあるスタイルだ。
「とんでもない、驕りじゃないですから安心してみてられます」
KAWAさん:「せっかく持ってきたげたのに!!」
すこし怒った振りをする。
「しかし、よくこんな暗いところを電気もつけずに歩いて来れましたね」
KAWAさん:「そう? 暗いところ慣れてるし 夜の女だから」
夜の女、KAWAさんには最も遠いイメージのような気がする。
昼間、明るいところを飛び回っているイメージがあるから。
「ところで、明日はどうなるんですかね?」
KAWAさん:「怖くなった? 逃げるんなら今だょ」
「逃げません!」
引き返すとか 考え直すと言ってくれれば肯定できたんだが 逃げると言われたら男として引き下がれない。
KAWAさん:「そうだよね〜 でも、不思議な子だよね もばちゃん」
「僕にはKAWAさんが不思議だけど」
KAWAさん:「それはどっち、仕事、それとも あたし?」
どきっとした。思わずあせって周りを見回す。
KAWAさん:「どうしたの」
KAWAさんが僕の動きに身構えた。
「なんでもないです」
KAWAさん:「そう。  で、どっち?」
「両方です」
KAWAさん:「えー、嘘でもあたしって言わなきゃ駄目ジャン そんな事じゃもてないんだから!」
そんな恥ずかしいこと言えますか。もし言えたら彼女いない暦・・年も無いです。
「次からそういいます」
KAWAさん:「じゃあ、不思議なのは お仕事 それとも あ・た・し?」
大きな目をいっそう大きくして 笑顔でこちらを向いて聞いた。
「からかわないで下さい」
思わず目を合わせられずに そう答えた。
KAWAさん:「だめ、よそ見しちゃ! 答えて」
ほほを押さえられて顔の動きの自由が無くなった。
「それは」
KAWAさん:「それは?」
「KAWAさんです」
そういって立ち上がった。
このままいると変な気分になりそうだった。
KAWAさん:「ねえ、それってどっちよ?」
「さあ、そろそろ寝ましょう。明日は大変なんですよね」
KAWAさん:「生きるか死ぬかの戦いになるかもよ?」
さも、ボーリングの試合をするかのような気軽な言い回しで言った。
「僕は大丈夫ですかね?」
KAWAさん:「さー? でも、運は良いみたいだから」
「運だけですか?」
KAWAさん:「あらそれが一番大事なのよ こんな所では」
「そういうもんですかね?」
事も無げにいうKAWAさん。段々、どうにでもなれって気分になる。
KAWAさん:「しんぱい?」
「はい、それはもうたくさん」
KAWAさん:「じゃあ、お守りあげる」
「お守りですか?」
KAWAさん:「ほら、目をつぶって」
「はい」
あまい匂いが 首の周りにまとわりついてきた。
唇に、何かが触れた。首、肩に抱きついてくる腕。
時間が止まって、そしてゆっくり動き出した。
腕から力が抜けてKAWAさんが離れた。
「KAWAさん」
KAWAさん:「ところで、人に見せると興奮するタイプ?」
「えっ?」
何を急に言うんだろう。
KAWAさん:「あそこで、二人程 覗いてるんだけど」
「えーっ」
KAWAさん:「お部屋に行きましょ」
明日のことを思うと気が重い。きっとあの二人だろう。
部屋の前に立ち、KAWAさんがドアを開けた。そしてそのまま閉めた。
KAWAさん:「ごめん、今日は帰るじゃあね。それから、田舎では電気のついた家のドアは開けっ放しにしちゃ駄目よ」
「はい、おやすみなさい」
残念な気持ちと、何が起こったかが判らなかった。
ドアを開けると、部屋の明かりに誘われてきた むしむし大行進だった・・・・