伊藤探偵事務所の憂鬱 51

昨日のことが頭に焼き付いて忘れられない。
枕元や、布団の中まで一杯に虫が入っていた。
かろうじて追い出して寝床に着いたが 電気を消すと何処からとも無くかさかさ音が聞こえてその度に目が覚めて 電気を付けて探す 探しつかれて眠ったのはおそらく明け方だったであろう。
あさ、目が覚めると体中に虫刺されがあった。
それでも、寝不足の顔で 起きて朝ごはんを食べにいった。
arieさん:「ぼうや、おはよう」
「おはようございます」
にやっと笑っていた。
arieさん:「昨日は寝苦しかったみたいね。首元に虫刺されがあるわ 目の下に隈まであるし。あんまりおいたしちゃ駄目よ」
横でぬりかべさんが うなずいていた・
「違うんです、昨日は部屋の中に虫が入ってきてて 大変で・・・・」
人差し指と中指を出して 僕の唇の上に乗せて
arieさん:「野暮はいわないのよ」
踵を返して食堂に入っていった。
にやにやと、ぬりかべさんが付いていった。
違うんですって・・・・
食堂では、人だかりが出来ていた。
「フィフティーファ〜〜イブ」
大きな声でアメリカ人が騒いでいる。
人ごみの中は想像がついた。お食事中のKAWAさんだろう
とりあえずarieさんたちの傍に席を確保した。
トレーに乗せて料理を運んできた。
arieさん:「あら、KAWAさんのそばの方が良くない?」
「いい加減にしてください。覗いてたでしょ」
arieさん:「あたしたちは偵察してたのよ。私たちって仕事熱心」
「じゃあ、なんでこっち見てたんですか」
arieさん:「あら、たまたまよ 誰かが手を握られたぐらいで立ち上がった姿とか 強引に抱きつかれた姿なんか見てないわよ」
顔が真っ赤になった。
「ちっ、違いますよ」
arieさん:「あら、可愛い あたしも手を出そうかしら?」
「勝手にしてください」
背中を向けて食べ始めた。
羊の料理は匂いがつよく食べにくい。でも、食べないと体が持たないので無理やりにでも詰め込んだ。
KAWAさん:「おっはよー もばちゃん お姉さま ぬりぬりさん」
「おはようございます。もう、いいんですか?」
KAWAさん:「いま、作ってるの 追い付かなくなったらしいの。」
人だかりもつれてやってきた。
隠密行動の筈なのに、目一杯目立っている。
周りの人たちは、アメリカから大食いアイドルが来ていて テレビの番組でこの基地の食料を食べつくすという撮影をしているらしい という訳のわからない噂をしていた。
arieさん:「取り巻きを沢山つれて、うちのぼうやはそんなに頼りなかった?」
KAWAさん:「??」
「arieさん、だからそんなんじゃなかったんですって」
KAWAさん:「あっ、やっぱりarieさんだったんだ あの双眼鏡で覗いていたの」
arieさん:「見えていたの?」
KAWAさん:「見えますよ 闇夜じゃないんですから」
arieさん:「じゃあ、坊やじゃ物足りないわね」
笑いながらarieさんが言った。
男:「Are you ready?」
KAWAさんが呼ばれた
KAWAさん:「はーい、いきま〜す」
再びKAWAさんは人ごみの中に消えていった。

あまりにどたばたとしたので忘れていたが、KAWAさんとの事が急にあたまの中に蘇ってきた。
いっそう、顔が熱くなった。
KAWAさんは、どう思っているんだろう?

arieさん:「ぼうや、11時に飛行機は飛び立つわ。それまでにちゃんとキスマークぐらいは消しとくのよ」
「キスマークじゃないです」
と言った時には もう帰った後だった。

さあ、出撃だ。