伊藤探偵事務所の憂鬱 56

「KAWAさん、KAWAさん。 うわぁ〜」
木立の中にそのまま激突するように飛び込んだ。
進行方向に向けて体勢を入れ替えているので 後ろ向きにぶつかって行った。
KAWAさん:「うぐっ」
「大丈夫ですか?」
ぶつかった枝に弾かれ ぶつかった木の向きによって体勢が右に左に入れ替わり 体中の打撲が増えていく。
ただ、耐えるだけだった。
体にを冷やす雪が、傷の痛みを和らげてくれている。
はっ、気が付けば地面・・・? だろう所に着いている。というより 動きが止まっているから地面なんだろう。
「うわっ」
変な体制で後ろにひきずられる。
パラシュートが風を孕んで変な方向に引きずられる。
「KAWAさん」
返事が無い。
“ぷしゅっ”また聞き覚えのある風切音。
あたりに聞こえる炸裂音。やっぱり銃撃なんだろう風を孕んだパラシュートの影から発砲してくる。
パラシュートか銃撃かどっちかにして欲しい。
どっちか一つでも困ってしまうが・・・
えーい、ままよ
肩のベルトに付けられたナイフを引き抜き体中に巻きついたベルトを手当たり次第に引きちぎった。ロープがちぎれる度に引っ張られる方向が変わり首や足が締め付けられる。
KAWAさん大丈夫だろうか・・
何本切ったか覚えていないが 体が冷えてきたから結構な時間が立っているのであろう。
几帳面にパンパン撃って来る。さすがにパラシュート越しでは狙いは無茶苦茶だ。
一番強く引っ張られているロープを切った瞬間体を支えていた枝が体を弾き飛ばして地面に叩きつけられた。
風に乗って“うぁ〜〜〜〜”という男の叫び声が聞こえてきた。
気の毒に、パラシュート越しに撃って来るから風を孕んだパラシュートに巻かれて・・・・
「アーメン」
映画の見すぎだろうか キリスト教徒でもないのに口から出て来た。

今度は間違いなく地面だ。
跳ね飛ばされた時にぶつかった場所には お陰さまで岩肌が露出している事を体中に痛みで覚えこまされた。
「あいたーっ」
お陰さまで頭を冷やす冷却物にだけは困らなかった。
意識がしっかりしたところで肩と腰に巻いてあるベルトを順番に外していった。
「大丈夫ですか?KAWAさん」
KAWAさんは意識を失っている。
「arieさん、ぬりかべさん どこですか? KAWAさんの意識がありません」
インカムがあるのを思い出して叫んだ。
arieさん:「そこはどこ?」
「えーっと、ここはどこ?」
arieさん:「馬鹿、役立たず!!」
「すいません」
arieさん:「聞いてるんでしょ! ビーコン確認!」
「はい?」
西下さん:「南東に2キロ」
arieさん:「いい、北西に向かってゆっくり歩くのよ、汗をかかないように 汗が冷えたら危ないからね KAWAちゃん連れてるんだから無理だと思ったらそこで止まる。KAWAちゃんの体温を確保する いいわね」
「すいません、北西って どうすれば・・・」
arieさん:「ショルダーに付いているのはおもちゃじゃないの自分で考えな!」
あっ、ショルダーにはコンパスが付いてる。
体温確保しろって言われても 映画で見るように裸で抱き合うわけにも行かないし・・・
KAWAさんのベルトを外し ヘルメットを取り とりあえずフードだけは掛けて首のジッパーをできるだけ上まであげて風が入らないようにした。
そうだ、鉢巻き・・・・バンダナを 首と口にかかるように巻きつけた。
首筋に触ったときに体は暖かかった。少しだけ安心した。
あっ、
「arieさん聞こえます?」
arieさん:「なに? つまんないことなら殴るよ!」
「あのー、撃たれたんです 誰かに」
arieさん:「なに?、どうして大事なことを先に言わないの で、撃ったやつは何処!」
どうも、パラシュートに巻かれて飛ばされてみたいです
arieさん:「一人だとは限らないでしょ! できるだけ早く行くから いい、ゆっくりよ ゆっくり」