伊藤探偵事務所の憂鬱 59

真っ赤になった僕
arieさん:「坊やには刺激が強すぎた?」
「KAWAさん、それよりも大丈夫ですか」
真っ赤になりながらも 正直 心配が先に立った。
ただ、KAWAさんの背中からは目が離せなかった。
arieさん:「起きれる様だったら起きてくれる、取り合えず固定するから」
KAWAさん:「はい、お姉さま」
arieさん:「もう一度お姉さまって言ったら 背中の傷をぐりぐりするわよ」
KAWAさん:「モバちゃん・・・・ そんなに見たい 私の体?」
「あっ、すいません」
慌てて後ろを向いた。
このまま起き上がったら KAWAさんは裸だった。
KAWAさん:「モバちゃん 起きたわよ!」
arieさん:「KAWAちゃんって、結構胸あるのね」
明らかにからかっている二人。
知らない間に、ぬりかべさんには arieさんのスカーフで作った目隠しがされていた。
KAWAさん:「も〜〜ばちゃん」
「もう、いいかげんにしてください」

雪のかべに囲まれたエリアにいると 驚くほど静かなことに気が付く。
普段は静かだと思っていても 普段は 音に囲まれていることに気が付く。
唯一聞こえるのは 恐らく包帯を絞っているような布のこすれる音だけである。
時々、日に照らされて溶け始めた雪の落ちる音が“どさっ”と聞こえるぐらいだった。
“ぱりぱり”
そう、雪の落ちる音・・・・
違う、氷の割れる音。
「あっ」
KAWAさんの後ろに向けて 反射的に走り出した。
KAWAさん:「キャー」
横を抜けるときに arieさんの肘鉄を食らってよろけながらも 走り抜けた。
手にはベルトから抜いたナイフを持ち 川から起き上がってこちらに銃を向けた男にのしかかった。
こちらの動きが速かったために 男の手から銃は飛び相手の頭は地面に打ち付けられた。
ナイフを持った手で、相手の顔に殴りかかった。
一発目が決まる瞬間に 顔が1メートルぐらい横に飛ばされた感覚がして瞬間的に体勢を入れ替えられ 僕の腰から抜いた銃を突きつけられた。
“フリーズ”
口の中から、鼻の奥から 血の匂いと味が広がる。そこに鼻も口もあるが 神経の通っていない肉の塊が張り付いているような感覚。
荒い息が続いている。息をするたびに あごの骨がゆれるようだ。
KAWAさんを見ていて自分でも何とかなりそうな勘違いがあったが、どう考えても弱っているとはいえ職業軍人にかなうはずは無かったのだ。
背中から一発食らって完全に動けなくなった。
arieさんもKAWAさんも手が離せない。
頼りのぬりかべさんも 目隠しされていて動けなかった。
あっという間に捕まって、そのまま縛られてしまった。
無線機で呼ばれた 雪上行動車がやってきて そのまま運び出されてしまった。
荷台に 4人そろって放り込まれてしまった。

arieさん:「よくやったわ、ぼうや」
ぬりかべさん:「オペレーション3 発動ですね」
arieさん:「坊やの顔を見れば誰も疑わないわね」
arieさんは 僕の顔を見て笑っている。
「もしかして 計画どおりですか?」
arieさん:「坊やが気が付いた敵に あたしはともかく ぬりかべやKAWAちゃんが気が付かないわけ無いじゃない」
「教てくれたらいいじゃないですか!!」
arieさん:「教えたら 何の躊躇もなく殴られる演技ができるなら頼んだわよ」
言葉に詰まった。 殴られるのが解っていたら怖くて飛び込めなかった。
arieさん:「予想外だったのは、坊やが思った以上に早く気が付いたことよ もし、本当に倒しちゃったら困ったから」
それで、ひじ打ちされたんだ・・・・
「それにしても・・・」
arieさん:「坊やが倒れても、戦闘力は下がらないしね」
「そんな言い方」
ぬりかべさん:「いいか、お前の体力が限界に近い。KAWAさんが回復する時間を稼ぐ その2点をクリアして 移動手段を手に入れる為にはこれしかなかったんだ。別に好きでやった訳じゃない。」
「・・・・・・痛いから寝ます」
鉄の床に顔を付けたら 傷が冷やされて少し楽になった。
なぜか、悔しさで涙が出て来た。