伊藤探偵事務所の憂鬱71

モザイクのようにはめ込まれた模様はカモフラージュで、少なくとも押したぐらいでは動かないパネルがはめ込まれていた。
かろうじて、ぬりかべさんが通れる程度の穴なので、本当の脱出用と言ったところであろうか。
一番身軽なKAWAさんが先頭に立って進んだ。
未だ脱いでいない蛙のスーツは 手と言うか前足のところがうっすら緑色に光って前を照らしている。
あとに、所長と僕最後にarieさんとぬりかべさんが続いた。
もちろん、入り口は元通り閉めておいた。
中から閉めれるように蓋には取っ手がついていた。触るのもはばかられるほどの埃はついていた。
細長い道は、かべの辺りまで行ったところで垂直に降下していた。
そこにはロープが用意されていたので 10数メートル下までロープを伝って降りると広い洞窟に通じていた。
洞窟の中は、テニスが出来る程度の広さで天井は2mぐらいの空間であった。
沢山の石塔が立っている広場からは 王宮に向かっての道が伸びていた。
辺りがぼやっと明るくなった。
所長が壁についているランプに火をつけたからである。
所長:「ふむ、おかしいな?」
「どうしたんですか?」
arieさん:「真面目に聞くと馬鹿を見るわよ」
皮肉めいた喋り方で言った。
喋りながら石塔の廻りを注意深く調べている。
「何かあるんですか?」
arieさんの見ている石塔に近づいた。
arieさん:「綺麗過ぎるわね」
「どういうことですか?」
arieさん:「さっきの扉のように、だれも何年も使ってないところって埃が溜まるものなのよ。」
所長:「そうそう、こんなランプに火がつくはずは無い」
じゃあ、火がつかないものになんで火をつけようと思ったんだろう? 所長の行動は不明なことが多い。
多くの石塔の中で、最も大きなものがあるのでそれを見に行った。
塔はモスクの塔のような外観で どちらかと言えばイスラムな影響を受けたもののようだ。
たしかにここもarieさんの言うとおりに、綺麗だ。
埃が溜まっていないといえば嘘になるが、手につくほどではない。
何か字のようなものと 数字のようなものが彫り込まれている。
台座は四角く大きくなっている所以外は丸い石が積み上げられて作られている。
台座の下には、四角く掘り込まれた石で支えられていた。
「arieさん、これ!」
arieさん:「どうしたの?」
arieさんも一緒に覗き込んだ。
「ここ、おかしくないですか?」
台座の石の溝が、溝ではなく石を動かしたことによる凹みのように見えたのである。
arieさん:「動くわね」
石塔をゆっくり押し出した。押された石塔が30cm程動いて壁側の岩が動いて通路が出来た。
通路の中には、遠目に見ても判る宝石が光っていた。
arieさん:「あっ」
引き寄せられるようにarieさんが宝石に向かって歩き出した。
よく考えたら、窓の無い洞窟の奥にある宝石が光って見えるはずが無い。
それよりも 吸い寄せられるように歩いてゆくarieさんも光って見える。
ぼんやりだが蛍の光のように瞬いて見える。
背中の方が明るく、まるでそこに羽のあるような輝き方になってきた。
そして、その輝きが照らされたものや、何かの発光具によって生まれてきたものでないと言うように arieさんの体から出ているものだった。
arieさんと宝石は、近づくにつれ輝きを増していった。
お互いが共振するかのように 同じタイミングで瞬いている。
「arieさん、大丈夫ですか?」
駆け寄ろうとした僕を所長が止めた。
所長:「大丈夫だ、今のarie君は無敵だから」
背中の光が本物の羽のように広がって、まるで妖精のように見える。
信じられないが、arieさんの光は、arieさんの服すら透けて見えてきた。
KAWAさん:「きれー」
服を着ているのは目で認識しているのだが、その中のarieさんの体も見えている。3次元映画をメガネ無しで見たような 輪郭が多重に写っているような状態にあった。
「arieさん」
本能的に止めなきゃと思うのだが、体が動かない。所長に止められているからではなく 本当に動かないのである。
arieさんが一歩進むたびに(正確には 動くと言う表現が正しい まるで空中を滑っているようである)輝きは強くなる。
目が、まぶし過ぎて悲鳴を上げている。
その圧力は体にさえ感じるほどになっている。
目をつぶっても、光は衰えを知らないかのように飛び込んでくる。
それでも、目が離せない自分がいた。
arieさんが一つの光の固まりになった。
宝石に到達したのであろう。
色の違う光が怒涛のように流れ込んできた