伊藤探偵事務所の憂鬱70

古い寺は(雰囲気からは教会といいたいんですが宗教が判らないので寺としかいえない)あまり使われていない。
もともとの小国とオープンな王様のおかげで、庶民の結婚式にまで大聖堂を使うほどのオープンな国である。
とても、わざわざ寂れた寺を狙ってくる人はいない。
ただ、人に言いにくい事情なんかでまれに使用されるだけのことである。
KAWAさん:「すいませーん、誰かいますかー?」
arieさん:「いるわけ無いでしょ! みんなクーデターでそれどころじゃないんだから」
「静かですね・・・」
所長:「こっちのほうに・・・」
「判るんですか?」
所長:「ん? 来たことも無いところがわかる訳無いじゃない」
判ったような、判らないような発言をする人だ。
どうも所長の人間性を誤解していたようだ。
小さな 教会としか思えない建物には イスラムの香りがしない。
ここアラブの地では珍しい建物である。勿論、王宮もどちらかと言うとヨーロッパに近い造りであろう。
多くのヨーロッパの小国がそうであるように、全てに寛容な王がいるだけの平和な土地である。クーデターなんか本来必要の無い国である。
寺の周囲は、表の辺りは流石に村人たちの努力の感じられるが 裏手にはそんな様子はまったく無い。
草むらの中を所長が進んでいく後ろを着いて歩いた。
背の高さより少し低い高さの草を掻き分けるたびに 小さな羽虫が飛び回る。
前を歩く所長が全て避けてくれる訳ではなく ただ、うまくよけて歩いてくれるもんだから かえって歩きにくくなっている。
角を廻って少し歩いたところでarieさんが声をかけた。
arieさん:「そんなところで遊んでないで 早く中に行くわよ」
KAWAさん:「もばちゃん ばっちい」
「はい? こっちじゃないんですか?」
所長:「なにが?」
「こっちに進入口があるんじゃないんですか?」
所長:「いや? 知らないよ 初めて来るんだから」
arieさん:「馬鹿じゃない そんな表から入るところにあったら 子供とかが間違えって入っていっちゃうから見つかっちゃうでしょ」
所長:「そうそう、arieさんの言うとおり」
「じゃあ、なんでこっちに?」
所長:「子供の頃から、入れないところって行ってみたくなかった?」
「それだけですか?」
arieさん:「だから誰も馬鹿にはついて行ってないでしょ」
「・・・・・」
馬鹿みたいなものである。
どういう方法かKAWAさんが鍵を開けて、みんなで中に入った。
薄暗く、かび臭い匂いが漂う薄暗い建物であった。
配光はよく考えられていたので 天井から差し込む光は ホールのあちこちを効果的に照らし 神々しい雰囲気をかもし出している。
教会ならいすが並ぶところであるが ここにはそういったものは無く 神の姿をかたどったと思われる絵を正面に掲げてテーブルが一つあるだけだった。
arieさん:「で、どこを探すんですか? 所長!」
あまりにも物の無い部屋に探す場所が見つからなかった。
所長:「そりゃ、みんなの知恵と勇気の出しどころだよ」
平然と答える所長。
KAWAさんが机の周りを丁寧に調べている。
KAWAさん:「だめっ、机は固定されているし この下は埋まっています」
銃の台座で壁をたたくぬりかべさん。
一週廻ったところで 肩をすくめるポーズ。
arieさんは、探す気も無く片膝を立てて座っている。
あたりを見回して考えてみた。
周囲の壁は扉になっていそうな音はしない。床も全て扉の気配は無い。
ボタンやレバーが隠されているのならともかく手で動かせる扉は無いようである。
KAWAさん:「にょろにょりょ」
うずくまってごそごそと何かしている
「KAWAさん、なにかみつかりました?」
KAWAさん:「これっ」
振り返ったKAWAさんの手には 1mぐらいの紐のような・・・・・
「へっ へび!!!!!」
誰にでも苦手なものはある。
もちろん、今回の事件の中で僕が人並み以上に活躍したことなどはないので大きなことは言えないけど、そういう物理的な問題ではなく 生理的ないやもっと本能的な部分での嫌悪感が反射的な行動で後ずさりをさせた。
正確には後ずさりと言う緩やかのものではなく 飛びのいたと言うのが正しかった。
背中に物が当たるまで下がったところで 後ろに机があることに気がついた。
そのまま机によじ登った。
「KAWAさん、捨ててください」
所長:「成る程、違和感はわずかに天井が低かったんだ。そして 机は固定して場所を知らせたわけだ。 ぬりかべくん よろしく」
同じ机にぬりかべさんが上がって僕を肩車した。
規則的な模様に隠された丸い模様に段があることに気がついた。
ゆっくり廻すと人の通れるぐらいの穴が開いた。
所長:「ビンゴ!!」