伊藤探偵事務所の憂鬱74

丁寧に、KAWAさんは胸のポケットから出した武器を袋に詰めて僕に手渡した。
KAWAさん:「重いけどしばらく持っていてね!」
いつもの優しい意笑顔でKAWAさんは言った
両方のこぶしを握り空手の構えのような肘を引いた構えを取った。
膨らまされた風船が萎むようにKAWAさんの服が萎んでゆく。
だんだん、体のラインに沿った服に変わってゆく。
緑のレオタードのようなぴったりとした服に。
KAWAさん:「もばちゃん、色っぽい?」
既に死語ではあるが“トランジスタ グラマー”という言葉がぴったりな肢体。
極端に細いウエストを中心に胸とお尻が飛び出している。
形良く上がったおしりが細い足と相まって足をより長く見せる。
手先が蛙のままなのはともかく、黒人のダンサーを見るようであった。
arieさん:「上げ底・・・」
KAWAさん:「もう、おねえさまったら!」
テレながらKAWAさんが言った。
arieさん:「お姉さまと言うなって言ったでしょ!」
にこっとこちらを振り返り笑ったKAWAさん。
体を大きく沈め、地面を這うように低く 兵の群れに飛び込んだ。
数メートル手前まで来ても、地面すれすれに掛けてくるKAWAさんの姿を捉え切れない兵たちが慌て 混乱を招く。
突然、KAWAさんは兵士たちの目の前で飛び上がった。
KAWAさん:「Hey!!」
150cmぐらいの身長のKAWAさんが 下手をすれば2mに届こうかと言う兵士の頭を超える高さまで飛び上がった。
全ての兵士の視線がKAWAさんに集まった。
“ダダダダ・・・”
軽機関銃を構えるぬりかべさんが 一番前の列の兵士に向かって撃った。
前列の兵士は全てその銃弾に倒れた。
ぬりかべさんの荷物は所長が持たされていた。
所長:「早くしてね そんなに長く持たないから」
arieさんは、角を一つ曲がった所に退避してお化粧直しを始めた。
前列の兵士が倒れるタイミングでKAWAさんがしゃがみこんだ。
2列目にあたる兵士は何が起こったか理解するのに数秒の時間を必要とした。
低い位置から、頭を先に割り込むようにKAWAさんは兵士たちの中に入っていった。
そこから先は、兵士たちの隙間から見える情報だけが頼りだが、真ん中に割り込まれた兵士は、同士討ちを恐れて銃が撃てなくなり肉弾戦に突入した。
低い体制から進入したKAWAさんは、前の兵士の足を右足で大きく廻すようにして払い、押し倒した。
倒れた兵士の頭が目の前に落ちてきたところで左肘が兵士の首の辺りに直撃した、その逆の右肘は垂直に大きく弧を描き前の兵士の肩口を直撃した。
脇があいた兵士の腹部には左の膝が突き刺さっていた。
次々と倒れる兵士。
中に飛び込まれたKAWAさんに気を取られている兵士は、ぬりかべさんの銃撃に気がつかず 端から倒されていった。
数十人の兵士では 10分もKAWAさんとぬりかべさんを足止めすることが出来なかった。
arieさん:「行くわよ!!」
いつの間にか化粧を終えていたarieさんが言った。
倒れている兵士の頭や顔の上を物ともせず進んでゆくarieさん。
所長に従い、僕も通路の外側を誰も踏まないように通り過ぎた。
西下さん:「ぴんぽん! 次の交差点を右に曲がります 10m」
車のナビの物まねをしているようだ。
当然、地下牢に向かっているから、階段を下って行く訳であるが 階段でKAWAさんたちにめぐり合った兵士には同情する。
ぬりかべさんは、武器の扱いだけでなく 格闘技(?)もエキスパートのようで 無造作に、なんのバックスイングも無く 捕まえた兵士の体を投げ飛ばしてゆく。
廊下で投げられた兵士はともかく、階段で投げ飛ばされた兵士は一番下まで転がっていった。
「大丈夫ですかね?」
所長:「彼らは手加減しているから、多分死人は出ないよ。それよりも流れ弾に気をつけなさい 当たると死ぬかもよ?」
まるで、ゲームでもするかのように簡単に人をなぎ倒して進んでゆく。
それにしても・・・・
KAWAさんは そういう世界の人だとは思っていたが今日ので実感した。
しかし、不謹慎かもしれないが KAWAさんが楽しく遊んでいるように僕の目には映った。
まるで、ブレイクダンスを踊っているかのような軽快なステップ。頭を超えた高さにまで上がる足。足と共に回転する体。
バランスを取るためか、一杯に伸ばされた指先までのライン。相手がいなければ僕にはKAWAさんが踊っているようにしか見えなかったであろう。
KAWAさんは、時々僕に向かって声を掛けてくれたり、合図をしてくれたりする。
倒された兵士たちには悪いが、僕の目はKAWAさんに釘付けになった。
“どん”大きな音が後ろでした。
所長:「これ以上、増員が来るのもうっとしいので 後ろを塞ぎました。もう少しで 牢にたどり着きます 急ぎましょう」
arieさん:「さあ、次は誰?」
arieさんが、上目使いに兵士たちを睨みつけ怒鳴りつけた。
残ったわずかな兵士たちは その場を放棄して逃げ出した。