伊藤探偵事務所の憂鬱75

KAWAさんのスピードと意外性のある攻撃。
それに対して ぬりかべさんの重厚感のある攻撃。
ぬりかべさんにやられた兵士は、恐らく腕が違いすぎることを実感し KAWAさんにやられた兵士は 何が起きたか理解できないまま倒れたであろう。
何の打ち合わせをしたわけでもなく、お互いの戦う姿を見たわけでもないのにまるで打ち合わせされていたかのようなコンビネーションで敵を倒していく。
二人はプロの戦士だと確信した。
地下牢への道はKAWAさんが切り開き、後方から追尾する兵をぬりかべさんが抑えている。
悲鳴を上げる所長、
所長:「arieくん重いんだ、少し手伝ってくれ」
arieさん:「いい男は、重い位で泣き言言ったりしない!」
KAWAさん:「もばちゃん、袋!」
「はいっ!」
KAWAさんの傍まで袋を持っていった。
袋の中をごそごそ漁るKAWAさんはいつものおどけた仕草のKAWAさんだった。
KAWAさん:「じゃんじゃじゃ〜ん わにさん!」
緑色のわにのぬいぐるみを袋から出した。
王宮の兵士たちの囚われている牢の鉄格子まで行ったKAWAさんがわにのぬいぐるみを鉄格子に取り付けていった。
KAWAさん:「近づいたらたべちゃうぞ〜 ぱっくん」
わにの顔を牢の中にいる兵士たちに見せつけ 扉から後ろに下がらせて鉄格子をわにのぬいぐるみにかませて行く。
全てがセットされたところで 袋から出した“ピコピコハンマー”でわにの背中を順番に叩いていった。
KAWAさん:「みんな下がっといてよ!! ぴょんぴょん」
5秒ほどの間隔をあけて わにが順番に口から火を吹いた。
KAWAさん:「特殊指向性爆弾 わにちゃん あたしだけの特別装備よ!」
そりゃーそうでしょう、国は違えどまさか ジェームスボンドがわにのぬいぐるみを持ってピコピコハンマーで順番に叩いて爆発させる姿は想像できない。
と言うよりは、これが似合うエージェントは世界広といえどもKAWAさん以外居ないだろう。
所長:「やれやれ、これで荷物が降ろせる」
荷物を床にぶちまけて、座り込んでしまった。
牢からは、様子を伺いながら兵士が出てきた。
arieさん:「注目!!」
いつの間にか 部屋の隅から机を持ってきてその上に上がって 出てきた兵士達に声を掛けた。
arieさん:「あたしたちは、あなたたちを助けない」
なんだそれは?
大阪の漫才じゃないがずっこけてしまった。
arieさん:「だけど、助かりたかったら武器を取りなさい。」
兵士たちは、所長がぶちまけた武器を手に取り出した。
服装の違う兵たちが所長のもとに集まってきた。
兵士:「王は、国王は?」
所長:「僕たちも、今来たところだから でも、囚われの王は常に塔の上じゃないの?」
兵士:「隊列戻せ!」
兵士の掛け声で、兵たちが整列した。
わずか30名程の兵だが、規律の取れた動きを見せる。
KAWAさん:「お立ち台、お立ち台」
コミカルな動きで、KAWAさんがarieさんの陣取った机の上に上ってゆく。
兵士:「隊列揃え、突撃!!」
arieさん:「ぬりかべくん 下がって!」
ぬりかべさんの後退で 攻撃を受けなくなった敵兵士がなだれ込んでくる。
少数とはいえ精鋭の王宮警備隊がそれを迎え撃った。
というよりもなぎ倒した。
兵士:「このまま 塔まで突撃―ッ」
所長:「がんばれー」
小声で聞こえないように言った。
arieさん:「で、あたしたちはどうするの?」
机の上から飛び降りたarieさんは言った。
遅れて机に上ったKAWAさんは 両手を交互に上下に振って踊っている。
微妙な勘違いをしているようだ。
所長:「まだあると思うんだよ」
「何がですか?」
所長:「抜け穴!!」
arieさん:「西下君! ある?」
西下さん:「そうですね、垂直に立ち上がっている穴はありますが 空気口か脱出口かまでは判りませんね」
迷わず、一番奥の最も立派な牢に所長が入った。
所長:「KAWAくん、鍵忘れたんだけどあけてくれる?」
KAWAさん:「はーい ぴょ〜ん」
台から飛び降りて 所長のところまで駆け寄った。
岩の継ぎ目の穴の一つを指差して所長がKAWAさんを呼んでいる。
KAWAさんは細い管のようなもので中を覗きながらゴソゴソと鍵を開け始めた。
「これはどこに行くんですか?」
所長:「テレビ ゲームに良くあるでしょ、ボスの所まで行く抜け道」
もう少しテレビ ゲームを やっとけば良かった