伊藤探偵事務所の憂鬱73

出口は、whocaさんが使っていると思われるクローゼットの中にあった。
男の入れない部屋の中にあるクローゼットの中には誰も入ってこないであろう。

時を同じくして街は静かになった。
緑に塗られた機体は大空に舞い上がり風に舞い散る木の葉のような勢いで上昇してゆく。
機体の真下に付けられている増槽が妙に大きく見える。
やまさん:「久しぶりじゃねえか、命がかかる出撃なんて」
気密性の低い機体からは、風が侵入してきて騒がしい音を奏でる。
オールドタイマーな飛行帽に黄色いスカーフを巻いた首。
焼ける燃料の匂い。
胸の鼓動が高まるのを隠せない やまさんであった。
高高度まで上昇した機体は高速の風に煽られながら予定ポイントまで近づいていく。
高度が上がるに連れ低下する気温が 体を引き締めていく。
鼓動は高まるが 引き締められた体が神経を研ぎ澄ましてゆく。
まるで、硬度の高い金属がぶつかるような甲高いが尖っていない音が聞こえてくるようだ。
やまさん:「いいねえ、この引き締まるような緊張感」
西下さん:「楽しんでいますか?」
やまさん:「冗談じゃねえ、年寄りこき使いやがって」
西下さん:「こちらからの指示は必要ないようなので ご自由にどうぞ」
やまさん:「よせやい、迷子になったらどうする」
西下さん:「よく言われますね、すでに攻撃ポイントに向かって太陽を背にして攻撃するポイントにいらっしゃるようで」
やまさん:「よく見えてやがる、いくぜ」
降下を始めるのに、大きく操縦桿を引いた。
引き上げられた機体を動かすエンジンのパワーが、地球の重力に負けて失速し 機体は落下を始める。
零式艦上戦闘機ならでは生きる 高速転舵機体操作である。
西下さん:「良くご存知ですね それにいい腕だ」
やまさん:「よせやい、照れるぜ 体力的にきついからこの後返事はしないぜ」
西下さん:「連絡だけはとります、返事は勿論結構です」
降下というより落下という表現が正しいスピードの侵入である。
あまり速度を上げすぎると機体が崩壊してしまうので調整しながらポイントに向かって進んでゆく。
西下さん:「もうそろそろ リリースポイントです」
やまさん:「まだだ!」
降下する機体は速度を上げてゆく。機体は細かい振動を早めてゆく。
もし地表から見ている人がいたら恐らく墜落するとしか見えない距離まで近づいた。
西下さん:「もう危険です、リリースしてください」
地表からでもそのエンジン音、風切音が聞こえている。
やまさん:「俺の秘ぞっ子をなめるんじゃない。」
急降下体勢から機体を捻った、機体後部が大きな運動をして一気に機体は水平に展開される。
急降下体勢から一気に水平になった機体は風の抵抗で折れるほどの力がかかる。
軽量な機体でなければ 二つに折れていたであろう。
何度も風の力で揺らされる。
本当の地表すれすれで 増槽が切り離された。
落ちた増槽は緩やかに落下する。
指令系統が混乱して 出撃の遅れた空軍がようやく迎撃についたが時既に遅かった。
地面に数メートルめり込んだ鉄の塊が、高圧の電線を巻き込んで地表に穴をあけた。
西下さん:「ご苦労様です、見ているほうはひやひやですが」
やまさん:「よせやい、こんなこと誰でもできる程度のことだ」
無理な運動をかけて、ぐずるエンジンをなだめながら飛び上がる機体。
やまさん:「逃げるぜ、若いの」
西下さん:「上の人たちのレーダーは塞ぎます。捕まらないで下さいね」

王宮の中は大混乱だった。
非常用電源に切り替わった王宮はいいが 街は電気をうしなって混乱している。
クーデターを起こした側にとっては、明らかに攻撃の前兆であるとしか思えない。
少ない兵の配置に苦慮して、王宮周囲に防衛線をはった。
所長:「うまくいったようですね 出ますか」
外からは鍵がかかっているが、当然中からは開けられる。
whocaさんの部屋をでて王宮に侵入を図る。
所長:「肉体労度は嫌いなんで、ここの人たちに働いてもらいましょう。地下牢に向かいます」
arieさん:「西下君、地図を出して」
西下さん:「電源の切断は成功しました。地図は送ります 減ったとはいえ兵はいます注意してくださいね」
所長:「ところでKAWAくん、いまarieさんに頼むと死人が出るから ぬりかべくんと二人に頼んでいいかね?」
KAWAさん:「うーん、やっちゃ駄目っていわれてきたんだけどな〜」
所長:「後で、おいしいケーキを付けよう」
KAWAさん:「わーい、じゃあ黙っていてくださいね」
KAWAさんは何か武器を用意し始めた。
「気をつけてくださいね」
喋りながら走っていると ようやく前から敵がきた。
ぬりかべさん:「持っていて」
武器を僕に預けて、ぬりかべさんとKAWAさんが兵士達の中に飛び込んでいった。
しかし、所長はなんでKAWAさんのケーキ好きを知ったんだろう?