伊藤探偵事務所の憂鬱76

時を同じくして、王宮各地では小競り合いが始まっていた。
誰かが呼んだものでもなく、街が停電したタイミングで気がついた旧政権を支持する者たちが立ち上がったのだった。
もともと、平和な国なので絶対的に武器が不足し、人数の抑えるすべも無く戦局は混乱を極めた。
西下さん:「まずいですね」
所長:「どうしたんですか?」
西下さん:「新しい政権を支持する国が 秘密裏に基地を既に作ってたようですね」
所長:「戦車でも出てくるか?」
半ば冗談のような口調で所長が言う
西下さん:「ぴんぽーん でいいと思いますよ 空の戦車ですから」
ぬりかべさん:「ジェットヘリか」
所長:「まずいな・・・・・」
「どうしたんですか?」
KAWAさん:「せっかく革命起こしたのにスポンサーに見捨てられたみたいよ、お城ごとどかーんてやるかも」
所長:「かもじゃない、西下君時間は?」
珍しく、真面目な顔の所長
西下さん:「残念ながら既に出撃したのを見てからのご報告ですから 遅くて3分」
やまさん:「何分 稼げればいい?」
「やまさん!!」
そうだ、やまさんがいたんだ
西下さん:「おやめください、子供と大人です」
ぬりかべさん:「ハインドか、それも2機」
西下さん:「残念ながら」
ぬりかべさん:「プロペラ機じゃ絶望的だな」
やまさん:「俺のことはともかく、俺のひぞっこまでポンコツ扱いはさせないぜ」
arieさん:「やめなさい、飛行機に唯一有利な速度すらかなわないんだから」
西下さん:「それも 残念ながら事実です」
やまさん:「少し遅かったみたいだな、王宮の上を飛んでいる飛行機を相手が見逃してくれたら 逃げるがな」
笑いながら言ったやまさんは、既に王宮の上にいるようである。
所長:「最初からそのつもりだったようですね」
KAWAさん:「やまちゃん・・・」
arieさん:「西下君、あなたも男なら何とかしなさい。急ぐわよ 時間を稼いでくれてる間に何とかするの」
西下さん:「とにかく高度を 取って下さい」
西下さんは細かい指示を続けざまに送り出した それに答えるようにやまさんは機体を操った。
まもなく開いた抜け穴に全員が乗り込んだ。
「この穴はどこまで続くんですか?」
所長:「どこの王様も 自分が捕まることを考えてないわけじゃないんだ。捕まった時は必ず一番立派な牢に入れられるから 城を作る時にはそこに抜け穴を作る人が意外に多いんだ」
arieさん:「一つや二つ、誰でも後ろめたいことがある物よ、例え英雄と呼ばれた人でもね」
所長:「だから、多分に漏れずここの牢にもあったって事。そして、この抜け穴は恐らく外とそして 王の部屋まで繋がる・・・・ 現在の王と思っている男の居る部屋まで」
arieさん:「男って馬鹿よね、なんで命をかけてそんなにつまらない物に成りたがるのかしら?」
KAWAさん:「王さんって 偉いからじゃない?!」
arieさん:「偉いって事は それだけ背負うものも多いってことがわかってればね」
「はあ」
所長:「なりたいかね? 王様に」
所長は僕のほうに向かって言った。
「いいえ、僕には探偵社の下働きのほうが似合ってそうです」
所長:「そうか、じゃあ誰にあげようか 王位」
「どういうことですか?」
所長:「どうも、この国の正当な後継者は私らしいんでね 誰かに譲らないと 柄じゃないし」
KAWAさん:「王様 王様 あれっ? 王冠無いよ?」
arieさん:「王様 もうすぐよ!」
細い煙突のような管を はしごで登ってゆく。
灯かりが無いので先までは見通せないが KAWAさんのもつライトの灯かりが行き着いたように見えるところがある。
KAWAさん:「出口みたい」
小さな、人が一人通れるような入り口が在った。
所長:「私が行きましょう」
所長が先に入った。
所長:「こんばんは、いい夜ですね」
間違えてないけど、この場の雰囲気に合わないような挨拶をした。
大臣(現王):「だれだ!!」
所長:「そんなに大きな声を出さなくても聞こえますよ」
大臣:「生きてたのか・・・・ 何をしにきた?」
所長:「だれも欲しがらないんで 王位をあなたにあげに来たんだけどいる?」