伊藤探偵事務所の憂鬱77

その非力なエンジンながらも軽い機体は高度を上げてゆく。
西下さん:「空中戦の基本は高度です 特にパワーの無い機体・・・」
やまさん:「そんなことは若造に言われなくてもわかっている。それよりここまで離れたら追ってこないんじゃないのか?」
西下さん:「それが正体不明の機体を自分の頭の上に置いておかないのは基本ですから間違いなく追ってきます」
やまさん:「で、どうやって勝たしてくれるんだ?」
西下さん:「勝つつもりですか?」
やまさん:「おめーらを見てると負ける気がしねえんだ 負けたら“馬鹿らしい”って笑い飛ばされちまう」
西下さん:「望み薄でも、私も勝つつもりなんです 残念ながら」
やまさん:「そりゃーいいや 初めて気があったな」
西下さん:「ただし、賭けなんです 相手がゼロ戦を知らなくて あなたの機体が終戦間際の後期型だってことが」
やまさん:「後期型だって、マニアの間では馬鹿にされてるんだがな 俺には丁度いいって思ってるんだが それに助けられるか」
西下さん:「来ましたよ 予定通り 上と下高さを変えて近づいてくるから後ろで上の機体に接近してください」

whocaさん:「どうしても行かなければ行けないのですか?」
kilikoさん:「あなた方の予言が運命なら これも運命です」
whocaさん:「そうですか、全ては神の御心のまま」
kilikoさん:「失礼ですが その言葉 お嬢様の前では言われないほうがよろしいかと」
whocaさん:「どうしてですか、私は神に仕える巫女です」
kilikoさん:「“神が全てをかなえてくれるなら 私は自殺する“っていうのが持論ですから」
苦笑しながらkilikoさんは言った。
whocaさん:「まあ、」
kilikoさん:「冗談はさておき、おっしゃったかも知れませんが あの方は運命をお信じになりません。信じられないような経験を多数されてきました。信じられるのはぎりぎりまで追い詰められても自分の力だけと思ってらっしゃいます。そして、何よりも運命に身を任せ自分で行動を起こさない方をお嫌いになります」
whocaさん:「そういえば初めにおっしゃられていました」
kilikoさん:「私は お嬢様にお会いできたことを運命だと感じているのですがね。おっと これは秘密ですよ」
指を口の前に縦に出して 口を塞ぐポーズをした。
whocaさん:「まあ、それは良いお導きですわ きっと」
kilikoさん:「ありがとうございます。私はあなたをさらってでも連れて来いといわれておりますので 失礼ながらさらわせて頂きます」
whocaさん:「では、ここはどうすれば?」
kilikoさん:「ちゃんと代わりのものを用意いたしております」
奥からwhocaさんそっくりの女性が現れた。
whocaさん:「さらわれるのでしたらしょうがないですわね お連れください」
kilikoさん:「では、失礼してさらわせて頂きます」
本当の姿かどうかは判らないが、今日のkilikoさんは ちゃんとスーツを着こなした紳士であった。
20台後半から30代前半と思われる容姿に、そつの無い行動。丁寧な言葉遣い。
やはり、年齢出生不明では在った。

大臣:「王はわしだ、譲られるようなものではない」
所長:「そういうのを裸の王様って言うんですがご存じないですか?」
腕を振り上げて怒る大臣に 冷静な笑顔の所長が言い放つ。
大臣:「なに?」
所長:「あなたを消すために 見て御覧なさい 外には兵たちが立ち上がった」
大臣:「むう、しかし私には・・・」
所長:「私には、私を支持してくれる国がある・・・ですか? 窓の外にやってきたヘリは あなたごと この城を壊そうとしてるように見えますが?」
大臣:「なに? 裏切ったな!」
所長:「貴方にはどうも王の資格が無いようですね」
大臣:「わしは王だ」
所長:「残念ながら 私が前王から任命された王なんです 証拠は・・・」
脱出の際に王より渡された短刀を見せた。
大臣:「それは・・・・」
所長:「ですが、私は王にはなりたくなかったので 適任者を探しにわざわざここまで来たのですが 残念です」
大臣:「それをよこせ!!」
所長:「お渡ししても良いですよ 貴方がこの重みに耐えられるなら。遥か彼方より血で塗り固められた歴史を隠蔽し 列強と対等に戦ってきた王達に並べるものなら。既に 人に頼った段階で資格は無いと思いますが」
arieさん:「あたしもそう思うわ」
全員既に中に入ってソファーでくつろいでいた。
KAWAさんはテーブルのフルーツを食べ漁っていた。
大臣:「お前たちは この王たるわしに何をするつもりだ」
arieさん:「あたしが 貴方に 王たる重みをあげるわ。帰ってこれたら貴方は王よ」
arieさんは 地下で見つけた宝石を袋から出した