伊藤探偵事務所の憂鬱78

所長:「arie君それは 駄目!」
ぬりかべさん:「間に合わない、みんな逃げろ!」
KAWAさんはフルーツバスケットを抱えたまま 僕はあっけに取られたまま両脇に二人を抱えてぬりかべさんは部屋の外に走り出した。
所長は、両手を出して止めていたが、あきらめて這うようにして全力で逃げ出した。
「うわっ」
多分車や列車では体験したことがあるが 人に運ばれてこの速度は未知の領域だった。
かなりのスピードで走る ぬりかべさん。風圧なのか加速力なのかほっぺたの肉が揺れる。
KAWAさん:「わーい」
相変わらず食べながらである。
王の寝室を飛び出して所長とぬりかべさんは両サイドの壁裏に隠れた。
よくよく考えると 王の寝室の前に警備がいないわけも無く。突然寝室から出てきた侵入者に声を上げたものの 一人はいっそう力を入れて所長が開いたドアに跳ね飛ばされ、もう一人は いくつかの固いフルーツの攻撃を頭に食らってのびていた。
「KAWAさん!」
KAWAさん:「あたし マンゴー嫌い」
敵を倒すために投げたのか、ただ、マンゴーを嫌ってどけたのかは永遠の謎である。

ヘリコプターはもともと空中戦用の兵器ではない。
2機のヘリは、低空を飛ぶヘリが先を飛び 後方上空を飛ぶ2機での編成。
この編成は、地上掃討ようの編成で構成されている。
戦車もろくな空軍力も無いこの国を落とすには十二分な兵力である。
戦闘を飛ぶヘリは 地上にミサイルや機銃で攻撃する。
その援護をするために後方をヘリが飛ぶと言う 絶対的な布陣である。
もちろん、空軍力が無いことが前提であるが。
最初にレーダーに映る影を見た瞬間にパイロットたちは当然驚いたであろう。
攻撃ポイントに既に 飛行する敵がいることを。しかし、その速度からは兵器としては通常では考えられない遅さであることを認識した。
頭を押さえられた状態はそれでも危険なので追尾を行っただけのことである。
つまり、敵をなめていたのだ。
事実、物理的な戦力では彼らの判断は正しかった。
西下さん:「来ましたね」
やまさん:「急降下攻撃で落ちるか?」
西下さん:「落ちません。恐らく穴も開きませんね」
やまさん:「じゃあ、ぶつけてみるか」
西下さん:「それでも、落ちないかと」
やまさん:「じれってえ奴だな、どうすんだ?」
西下さん:「それは失礼、まず、一度きりのチャンスですが 前のヘリの後ろの羽をを落として下さい」
やまさん:「それで落ちるのか?」
西下さん:「せいぜいホバリングしにくくなるぐらいです」
やまさん:「いい、俺はお前に命を預けてるんだ。指示だけを頼む」
西下さん:「了解」
勿論無線で顔は見えないのであるが、喋り方とは裏腹に両手は多くのキーを叩き モニターにはありとあらゆる衛星から得られる状況が入っていた。
そして、顔には余裕が無く 脂汗すら浮かんでいた。
自分自身の中で、やれるかやれないかの葛藤が続いていた。
机の上のコーヒーはなみなみと注がれたまま 冷えきっていた。

whocaさんとkilikoさんは既に機上の人になっていた。
kilikoさん:「ファーストクラスを買い占めましたので人は入ってこないと思います。狭いと思いますがこれでご辛抱ください」
whocaさん:「こちらに来るのも、普通の飛行機でしたのよ。こんなにしていただかなくとも」
kilikoさん:「こちらは、無理やりさらっていますので 人目につかないようにしなければ おまわりさんに捕まってしまいます」
whocaさん:「それは存じませんでした、失礼いたしました」
実は、kilikoさんのジョークだったのだが 通じなかったようである。

所長は慌てて王の寝室の扉を閉めた。
所長:「ふー、せっかく王位をほしがってる人を見つけたのに」
ぬりかべさん:「あげるつもりは無かったんでしょ」
所長:「どうだい、ならないか?」
僕とKAWAさんの方に向かって言った。
ぬりかべさん:「arieさんが出てきた後の 気の毒な王様を見てからでも遅くないと思うよ」
二人に向かって くれるものがよっぽどろくでも無いものであるかのように言った。
勿論、貰うつもりは全然無かった。

arieさん:「この宝石は知ってるわね 王位継承のための闇の宝石。そして貴方が今の王を監禁してまで探しているもの」
大臣:「それを遣せ」
arieさん:「渡してあげるわよ、この宝石が見てきた悲惨な過去を付けてね」
arieさんが伸ばした手には宝石があった。
大臣に近づくにつれ輝きが大きくなり、大臣の顔が歪んでいった