伊藤探偵事務所の憂鬱79

機体は大きく弧を描き降下を始めた。
相手に探られないように、右に左に機体を振りながらこちらの意図を読まれないように 進路を後ろの機体に向けて見えるように降下してゆく。
機体強度の少ない ゼロ戦では機体の震えを押さえることが出来ない。
西下さん:「うまいもんですね」
やまさん:「おだてたって何にも出ないぜ」
ヘリはその編隊を崩さず、徐々に高度を上げてゆく。
既にこちらの機体を確認し、こちらの装備が丸腰に近いことも確認できているようだ。
ヘリにしてみれば、体当たりさえされなければ大きなダメージを受ける可能性が無い。接近するこちらに加速もせずに対応するのは絶対的な自信があるからである。
勿論、近づかれてもジェットの一閃で引き離せる自信があっての事である。レシプロのプロペラ機では急加速に対応する手段は無い。
そして、地上の制圧には長時間の戦闘を要求される。ここで燃料を大量に消費するジェットエンジンを使った空中戦は避けたかったというのが本音であろう。
やまさん:「しかしちいせえ的だな」
相手はこちらの動きを威嚇であると確信していた。
西下さん:「じゃあ、後ろの1機に体当たりをして見ましょう」
やまさん:「俺に特攻しろってか」
口調は怒鳴っていたものの、喋りながら体は指示通り後ろの機体に向かって動いていた。
近くまで来た途端、後ろの機体はジェットを吹かして目前から消えた。
急加速のせいで、少なくともやまさんにはそう見えた。
やまさん「ひゅー、体当たりもさせてくれないか」
すこし戸惑ったものの、予想通りの行動とばかりと 前の機体への軸線をずらさなかった。
西下さん:「見ての通り近づかせてもくれませんから 遠距離からの射撃になります」
やまさん:「老眼に、小さな的はこたえる」
西下さん:「老眼になると遠くのものが良く見えていいでしょ」
やまさん:「口の減らない若造だな」
どこか命を賭けたゲームを楽しんでいるような二人であった。
口とは裏腹に、二人は流れ出る汗をぬぐう事すら出来なかった。

耳の中に生ぬるい 年度の高い液体を流し込まれるような強烈な不快感が襲ってくる。
かべの向こうですらこうなんだから あっちでは恐らく 耳から流れ込んだ液体が頭の中をかき回すような感覚なのであろう。考えただけでぞっとする
前回と違うのは、感情の奔流に流されるような感覚だった前回に比べ 今回はフラッシュバックのように映像が飛び交う。
所長:「今回はarie君が感情を閉ざしている。だから宝石の記憶の事実だけが伝わってくるんだ。宝石にすら事実を刻み込むぐらいの悲惨な出来事だから出てきたら大臣の気が確かかどうかが心配だな。あまり見ないほうがいいね。」
「見ないほうがいいねって言われても 勝手に流れ込んでくるんです」
所長:「そういう時は楽しいことを考える。スナックの女の子とかクラブの女の子とか、ディスコの女の子とか・・・・」
「全部女の子ですね」
所長:「私は普段から苦しい訓練を積んでいるから大丈夫」
KAWAさんは、まだフルーツバスケットの虜だった。ぬりかべさんは表で敵が来たら迎え撃ってる。
この二人は心配なさそうだ。
「苦しい訓練なんですね・・・」
所長:「arieくんに怒られ、事務所の金に手をつけ 苦労してるんだこれでも」
「はい、それはご苦労なことで・・・」
だんだん変わってゆく所長への認識。
テレビでも人気者、街を歩けば女の子がほっとかない・・・・
なるほど、マスコミというのはヒーローのイメージを作り出したいようだ。
宮殿の一部で爆発が起きた。
所長:「ぬりかべくん!」
ぬりかべさん:「違います あれは、私の持ってきたランチャーの音です」
所長:「やまさんの頑張りに期待するしかないか」
喋ってたおかげかarieさんのいる部屋からの嫌な感じが薄まっている。
もしかして所長は僕を助けるために・・・・
ぬりかべさん:「所長、次からつけの支払いが混んできたからって 仕事にかこつけて逃げるのは無しですよ。ろくなことに巻き込まれない」
所長:「計算だよ、この仕事で完済できる」
やっぱり、どうも所長という人がわからない。

大臣:「うわー、やめてくれー」
壁を越しても聞こえる叫び声。
崩れる寺院と生き埋めにされた人たちの目から見た絶望の風景が頭の中に映し出される。
「うわっ」
思わずその悲惨さに声を上げた。
KAWAさんがフルーツを食べ終わってやってきた。
KAWAさん:「よしよし」
僕の頭を抱えて、なでてくれた
少し、楽になって 別な欲望が顔を出した