伊藤探偵事務所の憂鬱83

arieさん:「西下君、電源を大聖堂に回せる?」
西下さん:「壊し方が良かったので、後数分で復旧しますので十分ですよ」
arieさん:「無駄なことは喋らない、受けを狙わない、アクションは取らない いいわね!」
所長に向かって強い口調で言うarieさん。かなりイライラした表情だ。
arieさん:「背筋を伸ばす、口をあけて笑わない、何よりものを食べないいいわね」
今度はKAWAさんに向かって・・・
KAWAさん:「はぃ」
口元をむずむずさせて 額にしわを寄せて笑顔を作るKAWAさん。
arieさん:「はぁ〜、そんなもんね」
音楽、ライティング、現在の人の集まり具合 てきぱきと指示を出して行くarieさん。
arieさん:「ふざけない!」
慣れない表情に戸惑うKAWAさんを笑わせようと、王の衣装で色々とおどけて見せる所長にarieさんが一喝した。

僕とぬりかべさんは左右のバルコニーに行くことを指示された。
手には銃を握らされた。
正直、戴冠式と聴いてもぴんと来ない。
この後に何が起きるかも想像できない。とにかく指示されたとおりに走った。
正直、一人で戦闘が起こるかもしれない所に行くことも嫌だったが KAWAさんの巫女姿を見ていたかった欲望が強かった。
ただ、それよりarieさんへの恐怖心が強かったからここにいるのだが・・・

みんなにとっては予想通りなのか、運良くかバルコニーまでは誰にも会わずにたどり着いたし、バルコニーもそのまま出ることが出来た。
眼下には、多くの人たちが集まっていた。
今まで銃を持って撃ち合っていた人たちが 二つのグループに分かれて 直ぐにも撃ちあいを始めかねない状況だった。

arieさん:「皆の者」
大聖堂に マイクも何も無くよく通る声で叫んだ。
まるで、聖堂内の空気が目に見えたらゼリーのように震えるのが見えるような声であった。
西下さん:「今だ、引き金を引け」
体が条件反射のように引き金を引いた。
「うわ!」
銃声が、両サイドのバルコニーから大聖堂中に響いた。
一瞬、視線はバルコニーに注がれたが 僕は反動で地面に跳ね飛ばされ ぬりかべさんは 当然、攻撃を受けるかも知れないところに身を置いたりしない。
大聖堂に集まった兵士たちは 口々に犯人を捜し始めた。
arieさん:「静まれ!」
良く響く声でまた叫んだ。
arieさんは、スポットライトを浴び暗い聖堂の中で浮かび上がっていた。
空に向かって大きく伸び上がった両手には拳ほどもある大きな宝石が輝いていた。
「ほー」
兵士たちの声が漏れ聞こえてくる。
所長:「人々よ、我が王である」
スポットライトの中に忽然と所長が姿を現した。
声は機械的に増幅されたものであるが 十分に威厳を持ったものであった。
KAWAさんが、深いベールをかぶり所長の後から この間見せた短剣をうやうやしく持ってそれに続いた。
KAWAさんは光の中に溶け込むように見えた。
ただ、所長がこちらに向かった手で、小さく“ピース”サインをしているのが確認できた。arieさんの心配も納得がいく。
恐らく、この高さではしたの兵からは人物の確認までは出来ない。
ただ、双方の兵士は その声が大臣でも今までの王でも無いことは確認できた。
しかし、あまりの事態にどう反応してよいのかわからない状態であった。
国の主要な高官たちは、大臣によって殆ど更迭されており事情を収集できるリーダーがいなかったためである。
所長がarieさんに、もう一つの宝石を渡した。
「あれは・・」
西下さん:「そう、想像通り 闇の宝石だよ」
両の手に 二つの宝石をもつarieさん
arieさんに当っているスポットライトをミラーボールのように反射した。
西下さん:「めったに見られないものだからしっかり見とくといいよ」
arieさんの体は闇の中に浮かび上がり 目がarieさんから離せなくなった。
arieさん:「悪辣な手段にて、王位を狙った不届き物は 神の加護により滅ぼした。兵たちよ その剣を引け!」
「おー」
兵士たちから感嘆の声が上がった。
arieさん:「彼の王は、王位が奪われる前に 王位継承者を指名した。王位を継ぐための剣、そして王位を示す宝石、そして、遥か過去から王と共にある宝石。この3つが揃って王位の継承を神によって認められた」
ざわめく兵士たち。
所長は、arieさんに導かれ、剣を天にかざした。
剣は宝石と違い 直線的な光を兵たちの下に投げかけた。