伊藤探偵事務所の憂鬱85

所長は寝室のベッドで気を失っていた。
arie:「だからあたしが何で」
KAWAさん:「ああしなきゃ切り抜けられなかったんだもん」
西下さん:「そうですよ、やりすぎなんですから」
arieさん:「あたしが悪いって言うの? なんなら今すぐたたき起こしてどっちが正しいかはっきりさせましょうか?」
KAWAさん:「でも、お姉さま 戴冠式の最中に王様殴り倒しちゃ駄目じゃないですか?」
arieさん:「それは、そこで寝てる脳天気に言って。ちょっとでも見直したあたしが馬鹿だったわ!! 何より お姉さまって呼ぶな!」
「あのーそれよりも 王がドアの前でお待ちなんですが」
さっきから入り口のドアの前で待ってるんだが 誰も気に留める様子もない。
一国の王をドアの前に待たせて、いい合いをしているこの人達は・・・・
arieさん:「うるさい、もう王じゃないんだから待たしとけばいいのよ」
ぬりかべさんはドアのところで、衛兵隊と言い合ってる。
今まで王だった人が入れないんだから当然であろう。
西下さん:「おいっ、とにかく所長をたたき起こせ」
誰に言ったんだろう?
周りを見回してもこたえる気配がない。
西下さん:「お前にしか回線をつないでない」
「僕ですか?」
西下さん:「そうだ、方法は問わないから起こして来い! 他に事態を収拾する方法がない。責任を取ってもらえ」
「どうやればいいんですか?」
西下さん:「色々あるだろ、椅子を頭からぶつけるとか、銃に弾を込めて撃つとか」
「死んじゃうでしょ!!」
西下さん:「俺なら、arieさんのパンチよりはそっちを選ぶがな」
なるほど、冗談だったんだ。
でも冗談が出るぐらいだから、難しい局面は終わったんだろう。
「所長、起きてください!!」
言い争いをしている後ろを抜けて、所長を起こしに行った。
揺すってみたり、ほっぺたを叩いたりしてみたが起きる気配がない。
「西下さん 駄目です、起きません」
西下さん:「肩から下げてる銃を持ち上げて、思いっきり振り上げて殴る振りをしてごらん あはは」
事情は判らないが言われるとおり大きく振りかぶって殴りつけた。
所長:「まてっ、わかった 起きる! 許してくれ」
西下さん:「ははは、ほらなっ! きっとさっき目が覚めたけど 起きるとめんどくさいことがおきるから寝た振りしてたんだ」
「なるほど」
と感心している間に、みんなが所長に気がついて集まってきた。
所長:「やあ、おはよう arie君 今日も美しいね」
arieさん:「ありがとう、おかげさまで苦労が多いもので 皺は出そうだけど」
とても感謝の言葉とは思えない口調と表情で言った。
所長:「ぬりかべくん、お通しして」
arieさん:「まだ話は終わってない!」
arieさんは叫んだが、叫んでいる最中にも王は入ってきた。

前王:「これは、王にはご機嫌麗しゅう」
所長:「そうでもないんだがね、顔も何故か腫れてるし」
前王:「お妃様には ご不快の件がございますようで」
arieさん:「貴方の目は節穴? どこをどう見ればこの脳天気の奥様になるの?」
KAWAさんとぼくはarieさんを精一杯抑えた。
あの場を収拾するために、KAWAさんがお妃として arieさんを紹介したのだ。
おかげでその場は何とか 後ろから所長を操り人形のように操って 事態を収拾した。
しかし、部屋に入ってから ずっとarieさんは暴風雨の吹き荒れる台風のような状態である。
arieさん:「だいたい、あんたがしっかりしないからこんな事が起きて あたしが日本からこんな所までやってこなきゃ駄目になるのよ」
前王:「仰るとおりです、言葉もありません」
驚いてひるみながらも平静を取り戻し王は答えた。
所長:「その話は後で、貴方に頼みたいことがある」
前王:「はいなんなりと」
所長:「本日夜にパーティーを開きたい。大至急用意して欲しい。そして 更迭されている国の重鎮を 解放しそのパーティーに参加させてくれ」
前王:「わかりました」
所長:「そこの衛兵! 悪いがヘリが墜落してるからパイロットを探して出来たら夜までに連れてきてくれ」
衛兵は前王の方を向いた、前王は何も言わずに頷いた。
衛兵:「はい!」
所長:「では、よろしくお願いします」
前王:「では、失礼させていただきます」
前王は、何かの用で来たのであろうが、なにか納得したような表情で出て行った。
所長:「いやー、しかしのどかでいい国だね〜」
arieさんの拳がきつく握り締められた。
KAWAさんと僕は必死で抑えた