伊藤探偵事務所の憂鬱87

whocaさんは静々と空港に降り立った。
全てが予言できるわけではない。ましてや自分のことになるとからっきしである。
心理学的には無意識的保護行為と言うのだが 所詮 机上の学問。まず予言のメカニズムを解明できてないから信憑性にかける。
だが、本当に予言できたら精神的に耐えられないのが事実であろう。
大体、今の自分を保ったまま5分後10分後、半年後、一年後の自分が見えてそれに自分の考えを付け加えたりすると、頭がオーバーワークで倒れてしまう。
断片的に見える予言で十分だと思っていた。
と、いうよりもそれでも見えすぎると後悔するぐらいであった。
尊敬すべき王が王位より追い落とされてしまう。つまり自分の母国がなくなってしまう瞬間を見ることになるとは。それに向かって自分が何もすることも出来ないとあっては心が張り裂ける思いであった。
僅かにできることは、自分が国を出て 戴冠式を阻止すること。そして 断片的に見えた人たちを自分の為に働いてくれるように説得することだけだった。

arieさん:「お久しぶり、whocaちゃん。たっぷり4日は会ってないわね」
arieさんはwhocaさんを呼び寄せたときの激昂した感情を微塵も感じさせ無かった。
arieさん:「結論から言うわ、大臣は捕まえた、王は生きている。しかし、貴方の王はその地位を奪われて今は罪人、そして 貴方も共犯よ」
whocaさん:「そうですか、やはり運命は変わらなかったんですね。私は、私の運命を受け入れます」
頭を深く下げて、whocaさんは静かに、そして慌てずに言った。
「arieさん!!、そうじゃなくて・・・」
arieさん:「あんたは黙っといで!」
言葉は全て言い終わる前に遮られた。
こちらに向けたarieさんの顔はやはり怒っていた。
arieさん:「貴方は、この後どうするつもり? 尼になるってのは駄目よ! 既に神に仕える身なんだから」
whocaさん:「そんな、私は私の運命を受け入れて、罪に服しますわ」
arieさん:「貴方の罪は 何?」
whocaさん:「私には解りません。そこまでは予言には出てきませんでしたから。また、罪を決めるのはあなた方じゃないのですか?」
arieさん:「あたしは神じゃないから人を裁いたりは出来ないわ」
whocaさん:「・・・・」
「ともかく、王宮に行きましょう。夜までは時間がありませんから」
arieさん:「そうね、何を聞いても無駄なようだから」
kilikoさん:「お嬢さん、準備が出来ました。いつでもお帰りになれます」
arieさん:「へー、久しぶりに若い顔じゃない」
kilikoさん:「冷たいですね、こちらから声をかけるまで気にも止めてくれない。」
arieさん:「知ってるはずよ、私は私の思った通りにしか行動しないって」
kilikoさん:「そうでなければ追っかけたりしません」
arieさん:「物好きね」
kilikoさん:「それはお互い様かと」
いい雰囲気の二人、whocaさんのみが一人うなだれていた。
出来たら何か慰めの言葉がかけてあげられたら良かったのに・・・
あれ?言葉が通じなかったはずなのに。
「whocaさん、言葉はお解りになるんですね」
whocaさん:「すいません、騙すつもりは無かったんですが 多くの人の感情が流れ込んで来てしまいますと体が持たないもので、自分の国にいるときも言葉の通じない振りをしていますので 習慣で」
arieさん:「いつもそう、民衆の言葉を聞くのが怖いのよ」
「arieさん、そんな言い方をしたら」
arieさん:「あんたはこの子をかばうの?」
kilikoさん:「そんなことより、お飲み物はいかがですか?」
arieさん:「何があるの?」
kilikoさん:「丁度シャンパンがいい温度になってますよ」
arieさん:「じゃあ、一杯頂こうかしら」
kilikoさんがこっちにこっそりウインクした。
また、助けてくれたようだ。
arieさん:「しかし、おせっかい焼きね相変わらす」
シャンパングラスを回して泡を散らしながらarieさんは言った。
kilikoさん:「私のは所詮小さな範囲です、お嬢様ほどでは・・・とても一国相手にお節介を焼くほどでは」
arieさん:「今日は いちいち引っかかるわね」
kilikoさん:「ご自分でも解ってらっしゃるはずですね。私が突っかかるのではなく 元々怒っていらっしゃっている。でも、とてもストレートには言えなくて・・・・」
arieさん:「解ったわよ、もうそれ以上言わなくていい! 今度は本当に怒るわよ」
kilikoさん:「もう、一切おしゃべりしません。ただ、お代わりはお聞きして良いですか?」
arieさん:「そうね、それぐらいだったら許してあげる。 もう一杯頂戴」
kilikoさん:「はい、お嬢様」
シャンペンはグラスに注がれて、小さな泡の弾ける音がした。