番外編 KAWAさんのいつもの朝

“じりじりじりじり”
大きなベルのついた 目覚し時計が鳴った。
“ご飯抜きだよ! ご飯抜きだよ!”
違うブタのコックさんの目ざま差時計が鳴った
“朝だよー 起きないと 怒られちゃうよー げこげこ”
最後に緑のカエルの目覚し時計が鳴りました。
「ふぁー、煩い!!」
枕もとにあった小物が空を飛ぶ。
小さな人形の兄弟が、一瞬で三方に向かって宙を舞った。
全ての目覚し時計の snozzボタンに向かって矢のように飛んでいった。
そしてボタンに当って落ちた。
目覚ましは3つとも沈黙した。
そのまま約30分、戦いは続いた。

眠たさに力尽きそうになりながら、いつも一緒に寝るウサギのぬいぐるみを引きずりながら廊下に出た。
「今日も朝から訓練ご苦労様!」
笑いながら女性がすれ違ってゆく。
「頑張るわねー 今日は30分も訓練していたのね」
声はそうでもないが明らかに肩は笑いに震えていた。
「その格好は、誰にも見せられないわねー アハハハハ」
既に毎日の日課になっている。
黄色いだぶだぶのパジャマの上着。だぶだぶだから首の周りは何倍もあって片方の肩が完全に見えてる。隙間の多いボタンは 引っ張られて伸びている。
膝まである長い上着の中には、短い膝までのパンツ。
外から見れば、上着だけで寝ているようである。
それでも、色っぽく見えないのは幼い体系のせいか、それとも化粧どころか髪の毛もとかしつけてない格好のせいか 恐らく両方であろう。
一般論が通じるかどうかは別として、やはり女性は色っぽく見える方が男性の警戒を解き易い。多くの女性が例に漏れず足を美しく見える長いスカートや胸の谷間を強調した服装である。勿論、胸の谷間が見えるようにボタンが伸びたシャツ、首筋から見える白い肌 そして下には何もはいていないかのようなだぶだぶのシャツから伸びた整った足。どれ一つとして同じ表現なんだが 色っぽさは 大人のそれと子供のそれだった。
「もう少ししゃきっとした格好をしなさい!! 急がないと、又遅刻よ!」
一人だけ 年を取った女性が声をかけてゆく。
「はーい、今すぐに」
いつもシャワー室まで同行して、椅子に座っている子供の身長ほどあるウサギのぬいぐるみ。今日もおとなしく椅子に座っている。
シャワー室に入ったとたん、大胆に 全ての服を籠に投げ捨て 思いっきり冷たいシャワーを浴びた。
「っ!めた〜い もう冬ね」
頭から目一杯強くした水のシャワーの中で目を覚ましてゆく。
最初は目を瞑って浴びていたが 次第に体が覚めてきて そのうち大きく目を見開いた。
「はっ!」
水の流れを切り裂いて手が大きく伸びてパンチが出た。
右足を下から顔の高さまで大きく蹴り上げ そのままぴたっとその場で足が止まった。
「はっ!」
掛け声と共に左足の足首の力で僅かに飛び上がり、右足を下げたのと体を捻った勢いで 後ろから回した足がシャワーの水流を 恐らく横から見ていたら体を見せれるぐらい大きく遮って右足がもといた高さまで独楽のように廻って止まった。
踵は上がっているが 元々 左足のあった位置と寸分変わらぬ位置にあった。
勿論、左足は大きく上がったまま止まっている。
水は流れるのを思い出したように流れてカーテンのように体との間に入った。
「ふー」
大きく息を吐き出した。
顔を前に倒して、水の勢いで前に垂らして 両手で一気に後ろに遠心力を利用して送った。
シャワーから出ても、手を離さずにいて タオルを取って髪の毛と一緒に絞るように水を切った。
シャワーを止めて、つかつかと急ぎ足でタオルを巻いて走り出した。
「ご飯が食べられなくなっちゃうじゃない」
背中にウサギのぬいぐるみをしょって 自分の部屋まで走っていった。
部屋のドアが閉まった 15秒後には 既にいつもの幼そうに見える少しパンキーな格好だった。
そのまま食堂に飛び込んだ
「おばちゃん、いつもの!!」
「もう間に合わないでしょ! もうちょっと早く起きなよ」
食堂のおばさんは言った。
「おなかすいた! おなかすいた! おんばかすいた!」
「はいはい これだけだよ」
おばさんは“でかでかプリン”を差し出した。
かっ込むように食べる。
「ごっそーさん ありがとう じゃーね!!」
走って出て行こうとしたところに
「後で食べな!」
風呂敷に包まれたビデオデッキのような大きな包みが投げられた