伊藤探偵事務所の憂鬱91

新国王の入場である。
とっても知ってる人には国王には見えないと思うが 始めてみる人にはどう写るのであろう。
腕を組んで入ってくれば、どうしても目がarieさんに行ってしまう。
だが、やはり自らの進退が掛かっているこの国の人達は 国王に向かって視線を集中させた。
威厳を保つため、ゆっくりと歩いて前に出た。
ステージまで全ての人の前を通ってでた。
口々に、肌の色も違う別の人種の王に異論を唱えた。しかし、聞こえないような小さな声だった。
マントを翻し、大きくターンして正面を向いた。
みんなが息を止め、固唾を呑んで喋るのを待った。
所長:「やあ!」
組んだ腕の肘が、所長の腹に突き刺さった。
所長:「ごほっごほっ、ごほん 私が この国の王位を継承した」
改めて挨拶をした。
所長:「まず、初めに 数々の贈り物感謝します。頂いた方々には 特別の待遇を私が王位にいる間約束します。まず・・・・」
あんなに言ったのに、賄賂を肯定するような発言をし、あまつさえ貢物を出した人の名前まで言って・・・・所長をさっきのことも含めて軽蔑した。
それは、僕だけでは無い様で、前王の派閥は声を荒げて口々に 野次を飛ばしている。名前を呼ばれて得意げにする人、どちらでもなく慌てふためく人々の対応はまちまちであった。
ただ、前王の派閥と思われる人達は潔く 好感が持てた。前王の統治の正しさを物語るようであった。
arieさん:「おだまり!!」
会場がざわめき、所長が喋り終わったのにも気がつかなかったような状態であった。
そこを切り裂くようにarieさんの声が響いた。
arieさん:「王よ・・・」
聞いたことの無いようなやさしい声で王にバトンを渡した。
ただ、顔は笑ってはいなかった。
所長:「先代の王より位を譲り受け、王の証たる剣、宝石も揃った。私を王として認めないものはいるか?」
珍しく真面目な声で叫んだ。
前王の派閥らしき人達からは、多くの野次が飛んだ。
前王:「私が責任を持って推挙いたしました。皆のものにも十分に言い聞かせます。異存はございません」
前王の声に、今まで野次を飛ばしていた人達も黙ってしまった。
にっこりと笑みをarieさんが返し話は続いた。
所長:「異論の無い様であるから、今後私が王となる」
すでに、異論の挟みようの無い状態である。わざと どうしょうも無い状態で確認したので、その場の雰囲気は一層 悪くなった。
前王が止めなければ 乱闘に成っていたであろう一触即発の状態であった。
楽しいパーティなど、とてもじゃないがいえない状態であった。
所長:「さあ、では楽しく踊ってくれたまえ 音楽」
とりあえず、ワルツがかかった。
所長は膝を折ってarieさんにダンスを申し込み踊りだした。
ただ、ダンスとはとても思えない・・・・・
arieさんが優雅に踊るのに対して 所長はその周りを まるで盆踊りでも踊るかのように歩いているようにしか見えないものであった。
そして、場内で他に踊りだすものはいなかった。
所長は大きく手を振って曲を止めた。
また、舞台に上がった。
所長:「どうも、楽しんで頂けないようですね」
また、わざと感情を逆なでするように 語尾を上げて言った。
流石に、あまりにも酷い。ここの人達が止められないんだったら 僕が・・・
前に出ようとした瞬間、ぬりかべさんに肩を抑えられた。
ぬりかべさん:「もうしばらく様子を見てください。何も考えてない人じゃないですから」
所長:「では、パーティはお気に召さないようなので 本題に入りましょうか」
演奏のために呼んだ人達や、ウエイター、ウエイトレスを下がらせた。
椅子を用意させて自分は座り込んだ。
arieさんはその傍に寄り添うように立っていた。
所長:「衛兵隊も呼べ!」
強い口調で衛兵隊も呼び出した。パーティの邪魔になるから外に控えていたからである。
所長:「皆さん、お疲れのようですから手短に言います。まず、前政権に付いてではあるが、やはり責任者は当然、前王でですね」
前王:「はい、何なりと」
前王は所長の前に出て膝を折った。
所長:「それから、官僚の方々も前に ああ、贈り物を頂いた方々は結構ですよ」
ぞろぞろと不満げに官僚の人達も集まった。
所長:「前政権の運営が出来ず、反乱を起こさしめ国を乱した責任を如何に取られるかご説明いただきましょう」
前王:「私の責にございます」
頭を地に付けて 王は詫びた。
所長:「頭を下げられてもどうにもならないでしょ?」
冷たく言い放った。
官僚たちは拳をきつく握って 顔を興奮で赤らめた 勿論、衛兵隊もであった。