伊藤探偵事務所の憂鬱96

arieさん:「そして、数百年前の悲劇が又繰り返される」
arieさんの話は続いた。
宝石は真実を見た。
勿論、人の心までは見えない。
光の宝石と言われる、輝くような王の心。
闇の宝石と言われる、闇に沈んだ神官の心
双方の行動から想像されるでしょう。
国の存亡を賭けた王の悲しみが見えたでしょう?

所長:「ですが、それが本当に悪かったのですか?」
所長がいつもと変わらぬ表情で言った。
arieさん:「そうね」
所長:「あなた方が 今あるのはその人たちのお陰なんでしょ?」
王:「だが・・・」
arieさん:「whocaさんはどうなの?」
whocaさん:「どうって?」
arieさん:「貴方が同じ立場だったらどう?」
whocaさん:「・・・」
arieさん:「同じ行動を取るわね、間違いなく」
whocaさん:「そんな・・・」
所長:「まあ、それは後で良いとして どうします? ここに罪はありますか? ありませんか? 陪審員の方々?」
勿論、誰にも判断つかないことだったので 誰からも返事が無かった。
にこっとして、所長は皆の判断を仰いだ。
所長:「でも、少なくとも今の王には罪はありません。過去の王のことは皆でゆっくり考えてください。」
arieさん:「そうそう、死んだ人は何もしてくれないし 死んだ人の責任を取る必要は無いのよ。それより、今のこと・・・ ねえ、whocaさん」
所長:「arie君、あんまり責めなくても」
arieさん:「そうはいかないわ」
arieさんがきつい態度で言った。
所長:「もう、良いんじゃない 結果オーライで」
沈黙が流れた
所長:「じゃあ、今のところ王には問題が無いと言うことで」
誰も異論を挟むものはいなかった。
所長:「ついでに、王族と神官の法律も無くしてくれませんか?」
王:「それは・・・」
所長:「駄目だって言うんなら、この人たちに私が王の時代に書いたものに判子を押してもらいますけど 貴方が決めたほうが良いかと思うんですが」
重鎮達:「それぐらいの事であれば、結構かと思いますが?」
所長:「じゃあ、ついでにここで結婚式もお願いできますか?」
「結婚式ですか?」
久しぶりに僕が口を開いた。
なぜなら、僕以外の人たちは、その言葉にあまり驚いていなかったからであろう。
所長:「本人達が嫌でなければね」

重鎮達は、忙しげに準備を始めた。
arieさんだけが納得のいかない表情であった。
arieさん:「二人ともいい?」
王とwhocaさんをarieさんは呼び出した。
所長:「付いてってあげて、多分一番辛いのはarieさんだから」
所長に言われて、arieさんについて行った。
王の寝室で話は続いた。
arieさん:「率直に聞くわ? 王、貴方 whocaさんのことどう思っている?」
王:「正直なところ、もし 王で無ければと・・」
arieさん:「もし、whocaさんが さっきの話の神官と同じ事をしたとしても愛せる?」
arieさんの話が終わる頃から whocaさんの顔が沈んだままだった。
その顔色が 尚 蒼く変わった。
王:「さっきの話と同じと言うことであれば 問題がありません。きっと、彼の王もその神官を愛していたでしょう。私も、間違いなく愛すると思います」
王は迷わず言った。
「じゃあ、問題ないじゃないですか ねえ、whocaさん」
arieさんの話の内容は良く解らなかったが 王の言葉にはarieさんの心配する何かを吹き飛ばすような力があった。
arieさん:「whocaさんはそうじゃないみたいね」
相変わらず表情の硬いwhocaさんだった。
arieさん:「あなた、運命に導かれて出会いがあるって言いましたよね」
「そういえば、僕とwhocaさんが出会ったのも 予想された運命だって」
arieさん:「貴方のご先祖から聞いたことだけど、貴方も同じぐらい見えてるんでしょ。つまり、結末も解ってたんじゃない。」
whocaさん:「正直 そこまでは見えていませんでした。でも、あなた方に任せるのが最も良いかと 感じたんです。暖かくて 安心だったんです」
arieさん:「そうでしょうね、貴方のご先祖様も 被害者の数までは予想できなかったようだから。」
「なんでも、予言できるわけではないのですね」
arieさん:「そう、死人の予想も無いまま、起きるべきクーデターを止めずに 今に至るって訳」
「あっ、じゃあ」
arieさん:「そう、いつかの歴史を繰り返したわけ」