伊藤探偵事務所の混乱 8

ホテルの前にまたしても音も無くリムジンが止まった。
勿論、ホテルの前に迎えが出ていて レストランまで案内された。
初めて知ったのだが ホテルのレストランには 別に部屋が用意されている。
それも、専用に別のエレベーターの用意された。
エレベーターを出たところには一部屋だけ。すでに、連絡されているらしく広い部屋の真中には木の大きくない机に 二つの椅子が用意されていた。
部屋の両隅に立つボーイがうやうやしく椅子を引くためにやってきた。
料理もワインも何の指示も出さずに出てくる。
KAWAさんと僕の料理が違うのはきっと相手に合わせて料理を変えているのだろう。
でも、心配なのはKAWAさんの食欲。
今日はあわただしく買い物を続け いつものKAWAさんからは考えられないほどの小食である。
「KAWAさん もっと何かお願いしましょうか?」
しとやかに食べているKAWAさんがくるっと後ろを向いて すぐにこっちを向いたときには両手の人差し指で眉毛を吊り上げていた。
KAWAさん:「あたしだって、TPOは考えています!」
「あっ、ARIEさん」
思わず指を差して言ってしまった。
KAWAさん:「ピンポ〜ン 似てた?」
「そっくりでしたよ、怒ってるところなんて」
KAWAさん:「ここは雰囲気を楽しみましょう メインディッシュは後でルームサービスで取ってね」
KAWAさんが喋るたびに、赤い唇に目が行ってしまう。
ワイングラスに口を付けるのを見るだけで胸がどきどきした。
すごくおいしい食事だった。・・・ような気がする。
正直あんまり食事のことは覚えていない。
途中から、ルームサービスって言葉に引っ掛かりを感じて そのま余計に気になっていた。
KAWAさん:「ごちそうさま すごくおいしかったわ」
「気に入ってもらえてよかった」
ワインを飲み終えて、ナプキンを置いただけで、給仕が動く。
レストランを後にした。
立ち上がった瞬間に、深く切れたスリットからKAWAさんのあしが覗いた。
 
エレベーターに 一緒に乗ったボーイが そのまま上の階に。
そのエレベーターは、最上階のスイートにも繋がっていた。
開いたどあ、広がるリビングには大きなソファーが置かれていた。
奥に見える窓からは最高の夜景が広がっていた。
「ここは?」
KAWAさん:「一緒に 予約しといたの 嫌だった?」
「いえ、そんな事は」
エレベーターのドアが閉まると間髪入れずにKAWAさんが両腕をぼくの方に伸ばしてきた。
そのまま、二人の顔が近づいていって。
もう少しのところで、KAWAさんの首筋を柔らかく滑る腕に力がこもった。
僕を後ろに隠すように、窓際に向けて飛び出した。
erieriさん:「いいとこだったのに」
arieさん:「あんたの隠れ方が下手だったんじゃない?」
窓の外のベランダから二人の長身の女性が入ってきた。
「arieさん?!」
arieさん:「あら、残念だったわね」
「わざわざ、邪魔しに来たんですか?」
驚きに迫力は無かったが、完全に怒って言った。
arieさん:「怒らない怒らない」
erieriさん:「何ならあたしが続きを」
僕の傍に来た女性が後ろから腕を絡ませるようにまとわりついてきた。
KAWAさんは、ソファーに“どん”と大きな音を立てて座った。
「KAWAさん、僕にも何だか?」
KAWAさん:「解っているわよ、あたしが取った部屋なんだから。お姉さまでしょ!!」
erieriさん:「あっら〜 お姉さまなのね」
くすくす笑いながらいっている。
arieさん:「そう呼ぶなって言ったでしょ!」
「いい加減にしてください!! 何なんですか」
何だか解らないけど あまりにもたちが悪すぎる。
arieさん:「ごめんね、とりあえず謝るわ。でも、あんた達ブランド服お大臣様して買ったでしょ。その上、そのスカーフまで見せたでしょ。」
「はい」
arieさんが謝った事と、何か解らない事を言うのでテンションが下がってしまった。
erieriさん:「もうすぐ、この部屋はスパイ大作戦になるわよ〜」
悪戯な笑みを浮かべながら言った。
arieさん:「同じ邪魔されるなら、あたし達のほうが良いってね!」