伊藤探偵事務所の混乱 19

飛行機は北京に、到着・入国・税関 SARSのせいか、思ったより長くかかった。
最も、ばらばらになって集合できない人達の集まりだった事もあってより一層遅かったのも事実である。
空港の入国口には、ピンクの旗が金線に縁取られた旗を振る陽気そうな中国人が待っていた。
僕は、出来るだけ同じ団体だと気取られないように離れて立っていた。
KAWAさん:「だめじゃん、みんなと一緒にいなきゃ」
腕を引かれて、輪の中に連れ戻されてしまった。
みんなは恥ずかしくないのだろうか?
周りの視線が全部、僕たちの団体に注がれているような気がした。
そのまま、バス停まで。
僕は唖然とした。
ピンク色のバスには、地球のマークやなんかがパステル調の絵で描かれているラッピングバス。
多分、1Km先からでも迷わず来れる。この団体にはこれぐらいの装備が必要なのだろうか?
ガイド:「ようこそ!!☆愛ワゴンに」
にこやかに笑う少し胡散臭そうな男。
顔は笑っているがめがねの奥の目は笑っていない、そんな、背の高い男だった。
ガイド:「皆さんこんにちは」
少し中国訛りの日本語で挨拶をした。
ガイド:「私は、“神様”です!!」
みんなが笑う。
口々に、適当なことをはやし立てる。
ガイド:「本当です! 私の名前は 神様の “神”と書いて “シェン”と読みます」
みんなの口から、成るほど思ったのか 感心する声が聞こえる。
シェンさん:「これで、皆さん 私の名前を忘れないね」
いつも使うネタなんだろうが、うまい説明からガイドをはじめた。
広場を廻り、博物館に行き 自転車の大群を眺めてホテルに帰った。
夕食を食べながら、翌日の旅行の説明。
シェンさん:「みなさ〜ん、わたしわ この後 殆どのみなさんとお別れね! 私と一緒に行くのは 万里の長城行く人たち。上海に行く人達は ここでお別れ。でも、次ぎ来た時天に祈ってください、きっと神様 つまり私がやってきます。」
挨拶をして、食事が始まった。
シェンさんは、僕たちのテーブルにやってきた。
シェンさん:「こんにちは、明日からご案内はわたし。よろしいか?」
KAWAさん:「もちろん、よろしくお願いします。」
「よろしくお願いします」
シェンさん:「KAWAさん、貴方の食欲すごいね こんな所では足りない。食べ終わったら一緒に次ぎ行きます。」
KAWAさん:「ありがとう、気を使ってくれて」
そうだよな、一日中 ツアー客と一緒に同じものしか食べてないKAWAさん。
人目を引くほどは食べられないから、お腹が空いてるんじゃない無いかな?
シェンさんは見かけによらず、いい人みたいだ・・・・・
えっ? 何でKAWAさんが大食らいな事を知ってるんだろう?
「KAWAさん、この人」
KAWAさんがウインクをした。
シェンさん:「そう、今はガイドのシェンです」
背中をぞくぞくしたものが通り過ぎた。
レストランを出た後、餃子屋、天津、北京料理店とレストランの梯子をした。
さそり、かえる、ゲンゴロウ、猿、熊、アヒル、ガチョウ、鳥、豚、牛・・・・
世界中の四足動物の半分ぐらいは食べたのじゃないかと思えるほど食べた。
シェンさん:「聞きしに勝る食べっぷりですね」
「あはは・・・・」
中華料理の油の匂いが濃くて、いつもより一層胸やけがした。
KAWAさん:「もばちゃん、明日からきついよ!! 頑張って食べとかないと」
シェンさん:「話には聞いていましたが、とてもそうは見えませんね」
KAWAさん:「どっちが?」
シェンさん:「どっちもです KAWAさんは新婚だって言うのもきついぐらいだし、もう一人は・・・失礼ですが 普通の日本人ですね おどおどして自己主張の無さそうな」
「おどおどしてですか・・・ハハハ」
KAWAさん:「こないだの王国奪還ミッションの隊長さんだよ」
シェンさん:「いやー、流石に一流の人は見かけじゃないですね」
「一流ですか・・・・・・・ハハハ」
KAWAさん:「そうそう、あたしのかれっ!」
シェンさん:「じゃあ、大船に乗ったつもりで・・もうすぐ、相棒も来ます」
シェンさんはきょろきょろ店の中を見回した。
KAWAさん:「明日は、万里の長城まで行って、そのまま車で砂漠を越えるんです」
入り口に、大柄な女性のシルエットが写った。
極端にメリハリのあるボディだった。