伊藤探偵事務所の混乱 22

集合した事務所のメンバーの出発が、やむ終えない事情で遅れていた。
arieさん:「あたしに、ファーストクラス以外に乗れて言うの?」
西下さん:「しょうがないでしょう、ファーストクラスの設定が無いんだから」
arieさん:「じゃあ、チャーターして」
西下さん:「そんなに目立つことは出来ません」
arieさん:「いいわよ、あたし一人で行くから」
kilikoさん:「北周りなら、ご用意できると思いますが」
西下さん:「+15時間、ヨーロッパ周りの事ですか?」
arieさん:「それがどうしたの」
kilikoさん:「空港までの車はご用意いたしました、2時間後までにご用意ください」
arieさん:「ありがとう」
所長:「で、西下君 貧乏な僕たちの飛行機は?」
西下さん:「大丈夫です、アエロフロートのビジネスが用意されてます」
ぬりかべさん:「アエロフロートにビジネスなんてありましたか?」
西下さん:「気分です、気分 せめて気分だけでも味わいたいでしょ」
所長:「ありがとう、庶民の底辺な気分を味わえたよ」
西下さん:「とりあえず、ここから駅まで歩いて 駅から電車に乗って空港まで行ってください。 電車は定刻にホームに待たせていますから」
所長:「電車は、定刻にホームに着くだけだろ」
西下さん:「だから気分ですって」
 
所長たちは上海経由で、モンゴルへ
arieさんは、ヨーロッパ経由でモンゴルに入ることになった。
上海で一泊すると、ちょうど空港で合流できる。
せっかく用意されたホテルが、少なくとも所長には唯の荷物置き場としての役目しか果たさなかった。
長い南京ロードには角々に、片言の日本語をしゃべる日本的な観点で言っても 美女と思える人たちが立っていた。
何人も何人も引き連れた所長が、そのまま闇に消えていった。
残された、ぬりかべさんはそのまま食べ歩きに出た。
道の両脇には、名のある中華料理屋が並んでいた。
順番に、時間が途切れるまで食べ続けた。
上海にも最近出来た飲茶の店では、台湾風にワゴンに蒸し器を載せ 蒸篭を積んで廻ってきた。
端から順に頼んでいくと永久に食べ続けられる ありがたいシステムが途切れない食欲を支え長い食事時間を費やした。
 
kilikoさん:「本当に黙って行ってよかったんですか?」
arieさん:「誰に?」
kilikoさん:「それは、所長や事務所の方々に」
arieさん:「それはジョーク? 彼らが調べようと思って調べきれないことは無いわ。恐らくこの香港行きの飛行機に乗ることなんて事務所を出る前から解っていたと思うわ」
kilikoさん:「じゃあ、何故別行動を?」
arieさん:「事務所に人のためじゃないわ、それが解ってるんだったら手配も済んでるんでしょ」
kilikoさん:「恐らく・・・・ただし、私の手配では 相手が出てくれる確証までは取れませんよ ご存知のとおり」
arieさん:「あたしの名前が出てるんだったら大丈夫でしょ」
kilikoさん:「ではそのとおり」
話にあったとおり、arieさんはヨーロッパではなくそのまま中国に向かって飛んだ。
但し、所長たちは上海に、arieさんは香港に。
行く先は違えど、各々の思いを胸に秘め 飛行機に乗った。
 
中国は、大きく二つに分かれる。
勿論、中国本土と台湾といった区別もあるが、遥か昔からある、万里の長城の外側と内側。
外側の大半は、モンゴルの土地でありそれ以外の少数民族の土地である。
中国政府の支配は、その地の隅々まで及んでいるわけではない。
特に、少数民族の中には中国と言う国の名前すら知らない人たちが沢山いる。
中国と言う領土の中に住みながら、税金の一端も担っていない。
しかし、彼らは中国政府の何の保護も受けていない。
ギブアンドテイクの思想から言えば当然のことである。
いくつもの国との紛争を抱える中国も、その国境を支える少数民族に関しては 国境警備すらしていないのが事実であった。