伊藤探偵事務所の混乱 26

車は変わって、ジープのような車になった。
もちろん、屋根は付いていて 冷暖房は完備されているようである。
ただ、なぜか椅子や窓がじゃりじゃりするのは砂漠が近いからだろうか。
シェンさんの説明では、このまま、本日の宿泊地に向かっているそうだ。
いつの間にか(恐らく車のところにいたのだろうか)erieriさんも合流していた。
erieriさん:「え〜、皆様、右側に見えますのが砂漠でございます。この後、2時間後も砂漠でございます」
バスガイドのような口調で、ふざけて言った。
「砂漠だけなんですね」
シェンさん:「正確には、あちこちにオアシスがあります。オアシスは砂漠の休憩所のようにあります。多くは、町もあります」
「へ〜、今日の泊まりもそういうところなんですか?」
erieriさん:「そんなしけたところがいいの?」
シェンさん:「パオは違う。モンゴルの人たちは羊を飼う。羊は沢山草を食べる。だから、あちこち移動する。オアシスのところには何時もいる訳にはいかない」
erieriさん:「静かな夜と、満天の星空だけは約束できるわよ」
KAWAさん:「誰かが、何もしなけりゃね」
erieriさん:「あたしが何をするって?」
KAWAさん:「あら、だれもあなただなんて言ってないわよ、それとも何かしたの?」
erieriさん:「でも、保障しても良いわ、どこにいても見ることの出来ない星空だけは約束できるわ。ねっ、もばちゃん だったっけ」
「そうですか、たのしみにしておきます」
砂漠にも色々な顔がある。
全てが砂だけのところ、そしてぽつぽつと 草むらのような所が点在するところ。
砂漠といえば死のイメージしかなかったが、そこにぽつぽつ生えている草をみると より一層 生の意思が感じられる。
段々暗くなってくると、夜の帳が どちらも包み隠し死の顔だけが前に出てくる。
暗くなってこそ、明るい部分に人の命を感じ、広い地平線の中に、自分たちののる車のヘッドライトと目的地の点だけが映し出されていた。
たった一つの点が、近づき やがてそれがいくつかの点の集合体だと言うことが確認できた。
遠くから見たときには、輝きのように感じた明かりは、独特な形をしたテントから薄暗く漏れているものだと気が付いたときには到着した。
シェンさん:「今日は、ここに泊まります 荷物は私がします。皆さんは まっすぐ一番大きなパオに入ってください。」
案内されたパオは、直径20mはあろうかという大きなものでした。
中は質素で、土の上に直接建てられていた。
椅子とテーブルは木で出来た普通のもので、少しがっかりした。
シェンさん:「ここは観光客用のれすとらんです。あなた方 ここでご飯食べる。すごくおいしい」
何故か、シュラスコや中華料理がたくさん出てきた。
バイキングのような形式になっていたので、KAWAさんも心ゆくまで食べる事が出来たであろう。
ご飯を食べ終わると、erieriさんが言っていた星空を見に出かけた。
空は、抜けるほど黒くという言い方はおかしいと思いながら 手が闇夜に溶ける瞬間 二度目の経験である。
トルコの基地と違うのは テント以外には僅かな明かりすらも周りになかった事である。
きょろきょろと周りを見回して 自分達の寝るだろうと思われるテントを探した。
前回の苦い思い出があった。
幾つか小さなテントを順番に覗いていった。
KAWAさん:「何してるの?」
いつの間にか食べ終わったらしい。
表に出てきて、僕の後ろに気配も感じさせずに立っていた。
「いえ、泊まるところを見ているだけです」
KAWAさん:「えーっ、すけべー」
ストレートに聞かれて答えに困る
「いや、そういうつもりは」
KAWAさん:「えーっ、違うの?」
その言葉にも解凍に困った。正直、そんな気持ちは十分にあったから。
「いえ、それも」
KAWAさん:「どっち〜」
「お願いですから、苛めないで下さい」
KAWAさん:「泥棒猫も出ないし、今日はまだ平和みたいね」
「星が綺麗ですね。星明りで周りが明るくなっているようにすら感じさせますね」
KAWAさん:「そうね、ちょっと腹立つけど 綺麗な空ね」
「こんなに綺麗な空は、トルコ以来ですね」
KAWAさん:「そうだっけ、あの時はそんな余裕が無かったから」
「KAWAさんでもそんな事があるんですか?」
KAWAさんが何かを思い出して、声を殺して笑い出した。
KAWAさん:「そういえば、砂漠なら明かりを着けてても虫は来ないわよ」