伊藤探偵事務所の混乱 31

食事は豪華なものではなかったが、肉を焼き鳥を炒める野手溢れたもので、味付けも塩を基調にしたというよりも、塩だけのシンプルなものだった。
しかし、昨日までの観光客を対象にしたセット料理よりは100倍もましであった。
後で、食べたことを後悔するまでは最高の気分だった。
勿論、お酒も振舞われたが、正直この人たちを信用することが出来ずほとんど飲めなかった。
多少の、疑問が残った。
何故、erieriさんやシェンさんはこの人たちを信用したのか?
KAWAさんによると、未だ信用はしていないとの事だが 何か話が矛盾する。
彼らの言葉を信じる限り、彼らは僕たちに危害を加える気は無かったことになる。
勿論、僕の怪我は別としてだが・・・
じゃあ、誰が何のために?
「砂漠の盗賊」であることが解ったと言っているが、それがキーワードになるのだろうか?
それに、彼らの言う丁重にが 僕の語学力のせいか 彼ら独自の隠語なのかが判断付かなかった。
少なくともKAWAさんはその意味を理解していなかったが、erieriさんとシェンさんの戦いぶりを見る限り危険は無いと踏んだようだ。
シェンさんはともかく、erieriさんが本気なら、いままでの皆の言葉を信じるならだが、皆殺しは免れないだろうからである。
盗賊団よりも、erieriさんの動向が気になると言うのが正直な感想のKAWAさんだったようだ。
元々の目的地を絞りかねて所長たちの連絡を待っていた僕たちには、付き合って悪い話ではなかった。
個人的には、このまま暫くKAWAさんと新婚ごっこを続けていたかったのだが・・・
少なくとも、erieriさんやKAWAさんが人並み以上に強い、“ばけもの”クラスだと言うことは知っていたが、シェンさんまでそれに近い強さだと言うことがわかった。
僕を除いた全員が、その道のプロだと言うことがわかった。
だが、よく考えると 今までもそうであった。
未だに良くわからない、arieさん、戦闘のプロのぬりかべさん、情報のプロの西下さん。そして、何より きっと探偵のプロの所長(所長が最後になるのは、やはり未だ所長のことがわからない)、考えたらすごい人の集まりの中に身を置いてるんだなと思う。
食事の後に、ブリーフィングがあった。
どうも、中国の奥地に向かってやはり進むようだ。
彼らの本拠意に案内してもらえるようだ。
ただ、予想していなかったのは 夜中の行軍になることだった。
恐らく、erieriさんとシェンさんはこの事を予想してあの後、寝てしまったんだろう。
確かに、盗賊が昼間に砂漠を横断するとは思えない。
KAWAさんは、どんなに揺れていようとも寝ているし。僕は、さっき物を食べ過ぎたことが裏目に出て、行軍を何度も止めることになった。
砂だらけで、薄汚いと思った彼らの車だったが、彼らは彼らなりに車を愛していてきれいにしているつもりだったようだ。人に汚されるのは我慢ならないようだった。
KAWAさんといると何時も食べ過ぎることが悪い習慣である。
止まる度に、erieriさんにからかわれる。
各駅停車だの、難だの文句言われたがとても返事をする余裕は無かった。
ただ、きっと私の通った後には獣が集まっただろうなとは思った。
また、せっかくご馳走してくれた彼らに申し訳ない気持ちで一杯だった。
唯一の救いは、KAWAさんが気持ちよく寝ていてぼくの失態に気が付かなかったことである。
夜が明けたころには、流石に体の中には何も残らない干物のような僕の体だけが残った。
もちろん、気力も体力も使い果たして、そのまま 眠りに付いたところで目的地に到着した。
正確には目的地ではなく経由地ではあるが、昼間に目立つ移動をするわけにはいかずそのままここでの休憩になった。
朝ごはんつきの・・・・
朝ごはんのにおいがした途端、あんなに起こそうとしても起きなかったなKAWAさんが目を覚ました。
KAWAさん:「もばちゃん、食べないと体が持たないよ。それに、ここのご飯おいしいよ」
と薦めてくれたが、とても食べられる状態では無かった。
「すいません」
と断って、部屋に案内してもらって泥のように眠った。
まったく何も無く欲望のままに眠った。
あとで、同じベッドにKAWAさんが一緒に寝ていることに気が付いたが、残念ながら夢か現実化の区別が付かなかった。
勿論、そうである以上 何も良いことは無かった。
だが、きっと、監視が付いてただろうから余計な恨みを買わなくて良かったと考えるのが良いのか、残念だったのかを考えるのは その日の夜に目が覚めたときの付かれきった頭には難問だった。
夜が更け、また車は出発した。残念なのか、望ましいからか 夕方も何も食べられず 今日は、吐き出すものが無いことだけは確かだった。