伊藤探偵事務所の混乱 32

よく眠り、よく食べて、そして良く遊ぶ。
子供なら褒められる事だが、本当にKAWAさんは、その通りの生活をしていた。
ただ、夜と昼が入れ替わっただけで。
3日の日を費やし、僕の体調の回復を待つようにようやく目的地に到着した。
学習したことは、食べなければ体が持たないこと、寝れるときに寝ること、そして、体力の無いときには遊んでいる余裕が無いことだった。
arieさん:「遅かったのね」
到着した場所にはarieさんが待っていた。
勿論所長もぬりかべさんもいた。
「arieさん、所長もぬりかべさんも!! なんでここにいるんですか?」
erieriさん:「そりゃー呼んだからでしょ」
「なんで、こんな物騒な呼び方をしたんですか?」
arieさん:「物騒なことになったの?」
erieriさん:「約一名、特別な歓迎を受けたみたいよ」
arieさん:「私は、丁重にお連れするようにいったわよ」
謎の男が、奥に立つ老婆に耳打ちした。
老婆:「我が民族と関わりを持つものは、その資格を持つもの。資格を確認させてもらいました。ただ、失礼は無かったとお伺いしておりますが」
erieriさん:「そうね、失礼は無かったわ。間違えて殺しちゃうところだったけどね」
老婆:「そう在れば、それは運命 何も悲しむことは無い。生きていたのは、そのものの運 失わぬように大事にせよ。そして、未熟を正しなさい」
謎の男は、頭を下げてそのまま闇の中に消え去った。
KAWAさん:「ところで、そのおばあさんどなたですか?」
下から、老婆の顔を覗き込んだKAWAさん。
そのまま、後ろに2歩ほどジャンプして跳び下がった。
erieriさんも、構えを取って老婆に睨みつけるような視線を送った。
シェンさん:「二人とも、その方は何もされません。武器をおしまい下さい。」
erieriさん:「信用できない」
老婆:「流石、手玉に取られた筈ね。しかし、この老体にお前たちを倒す力は無い」
erieriさん:「その女のおかげで、疑い深くなったものでね」
シェンさん:「私の憶測が正しければ、そちらの方は“老”さん?」
老婆:「ここでは、人の目は無い。下手な日本語を使う必要は無い」
シェンさん:「私のことまで覚えていただいているのですね」
arieさん:「“老”の目に映らないものは、少なくとも中国には無いわ」
「お話中すいません、どういうことですか?」
erieriさん:「少し黙ってて!!」
KAWAさん:「もしかして、“老”って・・・・・」
どちらからとも無く、erieriさんとKAWAさんは顔を見合わせた。
KAWAさん:「失礼いたしました」
手の中に隠していた暗器を、相手に見せて改めて袖の中にしまった」
erieriさん:「ふん!」
腕を振り(恐らく、流していた糸をしまった)、そっぽを向いてしまった。
erieriさん:「で、その“老”さんが何の用?」
瞬間的に 言葉が終わるのを待たずに 数名の男たちがerieriさんを囲んだ。
全員が、武器を構え明らかに敵意むき出しの表情には決意が表れていた。
老:「よいよい、下がれ」
男たちは、睨みつけるような視線を残したまま下がった。
arieさん:「いくらあなたでも、この人に逆らったら命は無いかもよ」
所長:「このまま、一緒に行くんだったら自重頂かないと」
erieriさん:「私に危害を加えたり、試したりしないんだったらね」
口調はともかく、しぶしぶ承知したようだった
老:「とにかく、今回のことは詫びよう。相手が悪かったようだ」
KAWAさん:「ありがたきお言葉」
KAWAさんは、明らかに低姿勢である。どうもこのお婆さんを知っているようだ。
arieさんとerieriさん以外は、なぜか このお婆さんを 少し怖がるような反応である。
老:「さて、おじょうちゃんの質問だが」
erieriさんの、方を向いて話し出した。
老:「実は、わしも知りたい。この同族の望みで呼び寄せただけじゃからな」
老の指差した先には、arieさんがいた。
所長:「勿論、僕に聞いても駄目だよ」
arieさんを越えて、いくつかの視線が所長に向かったのをうけて話し出した。
arieさんに全ての視線が集まった。
arieさん:「まず、KAWAちゃん 例のもの出して」
KAWAさんが、スカーフをカバンから出した。
arieさん:「老、あなたがこれを渡した人について聞きたいの」
握ったスカーフを、arieさんは老の前に突き出した。
老の心が揺れたのが僕にも感じられた。
老:「さて、知ってどうする?」
老は視線をarieさんに投げかけた。敵意は無いが強い視線だった。