伊藤探偵事務所の混乱 38

考える暇も無くみんなは部屋に帰ってしまった。
「arieさん・・・」
呼び止めてもっと詳しい事が知りたかったのだが
arieさん:「もう、ここにいても得るものは無いわ」
といって出て行ってしまった。
所長は、女の子を追っかけて、ぬりかべさんは眠そうに部屋に帰っていった。
シェンさん:「erieriさんを探してきます」
とシェンさんも出て行ってしまった。
KAWAさんと僕の二人っきりになってしまった。
「KAWAさん、どう思います?」
KAWAさん:「どうって?」
未だ、食べながらKAWAさんは言った。
「さっきの話です、何を望むかって?」
KAWAさん:「うん、何を望むの?」
食べる手を止めてKAWAさんは言った。
いつもの大きな目をこっちに向けて開いて言った。
「何をって、解らないから聞いてるんです」
どうも話が通じてないようで、突然の出来事で何をしていいか解らずあせっている僕は、つい きつい口調で言ってしまった。
勿論、KAWAさんは悪くは無い。
KAWAさんは、体をこちらに向けて正面を向いて僕と向き合った。
KAWAさん:「貴方の欲しいものは何?」
KAWAさんの目は、僕の目を射抜いていた。
僕の顔は、射抜かれてピクリとも動かなかった。
「僕の欲しいものは・・・・」
思わす、KAWAさんに見つめられていた僕は“kawaさん”と言い掛けていい留まった。
「今は、特にありません」
KAWAさん:「でしょ、だったら何を悩んでいるの?」
「何をって・・・、世界を滅ぼす力ですよ」
KAWAさん:「正直に言うと、私はモバちゃんを殺す力さえもある。知ってた?」
にこやかに言うKAWAさん。
しかし、残念ながらKAWAさんの力のことは嫌と言うほど知っていた。
「はい」
しかし、想像してしまった僕が少し悲しかった。
KAWAさん:「でも、私はきっと貴方を殺したりはしないでしょ。」
少し、背筋がつめたくなった。
「勿論です」
KAWAさん:「力があるから使わなきゃ駄目って事は無いの」
「そうですね、だけど・・・」
KAWAさん:「モバちゃんの望みは、今は無いのでしょ! じゃあ、無理に作る必要は無いでしょ」
「でも、“老”さんが・・・」
KAWAさん:「決めなければどうなるの?」
「さあ、どうなるんでしょうね?」
KAWAさん:「多分、どうもならないでしょ。手に入れる前、つまり今に戻るってだけよ」
そうか、今と何も変わらないんだ。
「そうですね、でも、望みを一つ思いついちゃったんですけど」
KAWAさん:「えー、なになに?」
「取り合えず、僕たちをここまで呼び寄せたものの正体が知りたい」
KAWAさんが笑った。
KAWAさん:「それは望みじゃないわ」
「どうしてですか?」
KAWAさん:「それは、私の依頼。貴方のお仕事だから。忘れないでね」
「じゃあ、望みには出来ないですね」
KAWAさん:「あっだめー」
急にKAWAさんが叫んだ。
KAWAさんのテーブルからお皿を持っていこうと給仕がやってきた。
給仕:「まだお食べになりますか?」
見ていた僕が思わず笑ってしまった。
「すいません料理をもう一皿お願いできますか?」
給仕:「かしこまりました」
KAWAさん:「随分、可愛い望みなのね」
「駄目ですか?」
KAWAさん:「男だったら、もう少し大きな望みを持たないと」
食事が楽しそうなKAWAさん。
「じゃあ、望みを高く持って、KAWAさんを頂きましょうか」
KAWAさん:「えーっ、でも・・・ しょうがないわね。逆らえないですから!!」
「しょうがないんですか?」
KAWAさん:「そうね・・・・考えとくわ」