伊藤探偵事務所の混乱 40

深夜に掛けるサングラスは違和感がある。
「KAWAさん、。何でサングラスなんて」
KAWAさん:「時間が無いの、いい 何があっても目を瞑らない事」
「けど!」
KAWAさん:「どうせ見えないんだから一緒よ 光の大きなところを見るのよ」
シェンさん:「来ます」
そう言われても、自分の手も見えないところに いる敵が前だか後ろだか左だか右だか。
それこそ、上だか下だかすら解らない。
闇に、僅かに蛍のような光が見えた。
不思議なもので、その光に対して左に体が無条件に動いた。
転がった先には、何か出っ張るものがあって体を力いっぱいぶつけた。
「ぐっ」
声を出さなかったのは、慣れてきたせいだろうか?
KAWAさん:「フレア!」
叫んだのが後ろのほうで聞こえた。
その後 数分にも感じる 1〜2秒後行き詰まる空気の翻弄される様を 悲鳴をあげる肺が訴えてくる。
目の前には、大きな太陽が緩やかな速度で落下してくる。
KAWAさんに何度も言われた“目を瞑らない”というお約束を思い出して できる限り硬く目を見開こうとした。
現実には、五木博に負けない細い目だったとは思う。
サングラスをしているとしてはいえ、目の前で太陽を見たのだからしょうがない。
太陽を見たからといってそこだけに目を取られているわけには行かない。
周りをできるだけ詳細に見回した。
幾つかの動く影が見えた。
“ぷしゅっ”
どこからか聞こえた銃声が走った。
銃の音の聞こえたと思う方向を見ようと首を捻ったが、音の聞こえた方向を冷静に判断できなかった。
捻った首は、最も目を引く落下通の太陽に帰ってきただけだった。
落下する太陽は、音の聞こえた瞬間から大きく動いた。
“ぷしゅっ ぷしゅっ”
その後聞こえた複数の音によって、太陽は動きを止めて大きく破裂した。
地面には、その破片が散らばった。
さっきまでと違い、炭火が燃え残るような明かりが地面にばら撒かれた。
シェンさん:「やりますね」
KAWAさん:「メガネを外して!! 来るわよ」
自ら気がつくと、地面に寝転がっていた事すら気がついていなかった。
腰を力任せに引き上げて、膝で勢いを付けて走り出した。
どこにと言う事は無いが、KAWAさんの声の聞こえた方向だった。
キャンプファイヤーの周りで踊る人たちのように、うっすら赤や黄色に光る光の織り成す影の中 数人の人影が動いた。
ただ、違ったのは人影がダンスではなく、命の重さをはかりに掛けている事だった。
KAWAさんとシェンさんは影の中からでも区別が付く。
小柄な体のKAWAさんは、一秒も地面に立っていない。
狼のように、相手に向かって飛び掛り相手を踏み台にして次の相手に向かって飛び掛ってゆく。
シェンさんは逆に、どっしりと両足を地面に付け飛び掛ってくる相手を肘から上の動きだけで叩き落してゆく。
走っていって、何かができるわけではないがそこに向かって足は向かう。
足元には、昔戦場であった事を示すように 人が倒れている。
ふらふら、草むらから立ち上がって、大きな銃を持った男たちも出てきた。
頭には、大きなスコープを付け まるでロボットのようであった。
ふらふらしているのは、どうも目が良く見えていないようで 足元がおぼつかない。
これなら・・・・
悪い考えが僕の頭に浮かんだ。
走る方向を草むらに変えた。
蛍火のような明かりでも、僕の目には十分明るかった。
草むらの男に飛び掛った。
ただ、迂闊にも忘れていたのは 相手に対する攻撃を考えずに飛びかかったことだった。
相手に飛びかかった瞬間、こちらが見えてなかったので簡単に倒れた。
馬乗りになった瞬間にその迂闊さに気が付いた。
とりあえず、思いっきり利き腕の右で殴った。
乗りかかっているので、腰の回らない手だけで殴パンチだった。
相手の顔を、手が痛くなるほど殴ったが 僕の手の皮より相手の顔の皮がより厚かった。
そのまま、動かない拳はあっという間に相手に捕まって、投げ飛ばされて逆に馬乗りになられた。
銃底が顔に向かって落ちてくる。
相手はまだ目が見えない。あいまいな位置なので辛うじて避けた。
今日は、観光に来たはずなのに〜