伊藤探偵事務所の混乱 44

ブーツは、崖の上。裸足で崖を上ってゆく。
勿論、一度上った道である。
道筋は簡単に判る。
荷物は崖の上なので、持っていない。
そして、さっきまでは乱れないように気を使っていた服も髪形も今は気にする必要は無い。
ましてや、十二分に怒っている。
踏み出した足が、時々岩の角に当って痛みで顔をゆがめる。
おかげで崖の上まで 十分に怒りが持続した。
恐らく、上るのに費やした時間の半分ほどで崖の上まで到着した。
数人の男たちが、崖の上で作業をしている。
崖から落ちるところまでは確認している。
そして、崖にぶつかって ただの壁画になったところも。
死んでいる理由を探すのは簡単だったが、生きている理由を見つけるのが難しい状況。
集まってきた獣たちからも、血の匂いが崖の上まで上がってきそうな状況だったので疑わず安心して作業を進めていたのであろう。
erieriさん:「女性のカバンを除くのは犯罪よ!」
男たちに声を掛ける。
予想されていない事態に、男たちは混乱した。
混乱はしたものの、その道のプロフェッショナル達だ。
直ぐに銃を構え 言葉より先に弾が飛び出した。
 
多くの場合、各国では専門の諜報機関を持っている。
しかし、フリーの暗殺屋が世の中にいることも確かだ。
多くの場合は、自らの存在を隠すため。そして、射撃などに特別な能力を持つものが選ばれる。
“ゴルゴ13“が実在すれば、彼がそうである。
しかし、信用第一の世界とはいえ所詮 金が彼らの物差しであるが故に常に裏切りの危険性を孕んでいる。
故に、直接先頭に加わらない部隊が少し離れて付随している。
安全を確認した上で出てきた、彼らがばったり顔を合わしてしまった。
勿論、裏切り行為があったときには殺人部隊にはや代わりする彼らだが、所詮正規部隊。
erieriさんに敵う筈が無かった。
尚且つ、怒ったerieriさんに・・・・
あまりに早すぎて、表現できないほど早くけりが付いた。
皆殺し・・・・と思われたのだが、彼らの武器を奪い。
狙ったかのように、彼らの右足だけを殺していった。
勿論、余計な事の出来ないように 腕にも攻撃は加えていた。
殆ど動けないことを確認して、erieriさんは鞄を確認した。
erieriさん:「何もなくなってないようね」
一変してにこやかな顔になったerieriさん。
男達のほうに向かって 喋りだした。
erieriさん:「で、どこの国の人達?」
男:「・・・・・」
erieriさん:「誰の命令?」
男:「・・・・・」
erieriさん:「お口が利けないのかしら?」
腕を引くと、男が地面から首を絞めながら吊り上げられた。
それでも声を上げなかった。
erieriさん:「そう、そういう訓練を受けてきたのね」
手を下ろすと、男も地面に落下した。
男:「ごほっっごほっ」
締まった首を開放されたので、急激に始まる呼吸に咽たようだ。
erieriさん:「お名前ぐらい聞かせてくれる?」
男:「Aだ」
明らかな偽名だったが、erieriさんは全然気にしないようだった。
erieriさん:「貴方がA君で、きっと彼がB君ね」
喋りながら、erieriさんは服を脱ぎ始めた。
鞄の中から、新しい服を出して着替え始めた。
erieriさん:「念のため着替えを持ってきて良かった!」
下着姿になって、体を念入りにチェックしながら服を着てゆく。
男:「どうするつもりだ」
erieriさん:「別に、着替えるだけよ。死人に見られても恥ずかしくないし」
男:「死人? 俺たちのことか?」
男たちは顔を見回した。
erieriさん:「いい、貴方たちはあたしを怒らせたのよ。このあたしを。まさか殺してもらえるとは思ってないでしょうね」
男たちの目には erieriさんの笑顔は悪魔のように写っただろう。
erieriさん:「貴方の雇った根性無しが、ここの狼たちを呼んでくれたから、ゆっくり接待してもらいなさいね」
着替え終わったerieriさんは、そのまま、崖を優雅に降り始めた。