伊藤探偵事務所の混乱 43

erieriさんの体は重力に逆らわず落下を始めた。
じわじわと・・・・
倒れて意識を失った男に踏ん張る事は出来なかった。
いくらerieriさんが軽いとしても(勿論、知りませんよ)吊り下げられた体は
砂埃を立てて引きずらる男の動きに同調して落ちていった。
erieriさん:「根性なし!!化けて出てやる」
体を捻って、周りを見回し崖にある木に目をつけた。
腰を使わずに上半身だけで物を強く投げる事は出来ない。
上半身を下半身を違う方向に振って体に勢いをつけて体を回す。
erieriさん:「間に合う?」
体を2周させて、その回転を利用して大きく右手を振って見えない糸を投げつけた。
erieriさん:「いち、にい、さ〜ん」
体の回転は突然止められない。
糸が腕と体の間に絡まらないように、糸を捌く。
そして、到達時間を予測して、一気に腕を引き 体を小さく縮め糸が引っ張られた時の衝撃に備える。
erieriさん:「ひち、はち、きゅう」
糸を手繰り、崖と体の間の余った糸を引き寄せる。
脱いだ上着を体に巻きつけ、その体に糸を巻きつける。
erieriさん:「じゅう!!」
下への落下が方向を変え、ブランコに乗ってぶら下がるように崖のほうに向かって落下エネルギーが壁に向かって方向を変えた。
erieriさん:「まだ足りない・・ 高かったのに・・・」
首に巻いていた、ショールとツーピースのスカートを脱いで、肩から腕に向かって巻きつけた。
開いた、左手を大きく伸ばし時を待った。
erieriさんが落下するはずだったコースを落ちてくる黒い物体。
さっきの男だった。
勿論意識は戻っていないようだった。
もっとも、首に細いワイヤーを巻きつけ 人の体重で締め付けきをうしなわさせてそのまま、首から地面を引きずりまわしたんだから生きているかどうかのほうが疑問だった。
いま、脱いだ衣服に男に繋がるワイヤーを巻きつけ引き絞る。
erieriさん:「うわっ! ちぃ〜って」
巻きつけているとはいえ男の落下エネルギー込みの重量の多くを支え方向を変えてゆく。
勢いをつけて、男を崖に向かってワイヤーに繋いだまま投げつける。
その勢いで、erieriさんは大きく減速する。
そして、男に繋がっていたワイヤーを切断した。
落下速度以上に加速させて、崖に向かって飛んでいった男は赤い絵を崖に描いた。
erieriさん:「レディファーストは守ったほうが良いわね」
ようやく一息ついたerieriさん。
といっても、落下している状況には変わりなかった。
迫る崖、加速する落下速度。
かなりの速度なのに、ゆっくりした動作にすら映る状況であった。
大きく息を2〜3度した、
erieriさん:「はぁ〜っ」
崖に向けて足を伸ばし、激突する瞬間に膝を曲げて、速度を殺した。
erieriさん:「ぐっ!」
そして、そのまま崖を横にごろごろ転がった。
落下エネルギーを横にそらせて、何とか耐えたのである。
erieriさん:「あ〜っ、でんせんしたっ」
髪には、崖に生えた草や泥がついているし、肩から転がったので 腕には何箇所もあざが出来ていた。
erieriさん:「ふぅ」
崖を、ワイヤーを頼りにゆっくり降りてくるerieriさん。
erieriさん:「恋人には見せられないカッコウね」
自分の格好を考えると、自然に笑えてきたようだ。
しなやかな皮のコートは お腹から胸に向かって2重か3重に巻きつけ、スカートはショールに絡ませ方から腰に巻かれている。
剥き出しになった、白いブラウスの色は土色に染められ 所々破れている。
流石に、顔は庇っているようで、土一つ付いていないが 肩まで伸びた長い髪には草や土が絡まって寝起きの癖毛のような状態である。
腰から下はスカートを脱いでいるので、ストッキングに下着
そのストッキングも所々でんせんが走って穴が開いている。
確かに恋人なんかには見せられない姿である。
数十分かかってようやく崖から降りたerieriさんは迷わず川まで走っていった。
決して暖かい日ではないが、それよりも自分の格好に我慢が出来ないようで 体を洗い始めた。
幸いにもコートもスカートも破れてなかったので、もう一度着なおした。
erieriさん:「最低!!」
恐らく、仲間がいるだろう崖の頂上に向かって、恐ろしい視線を向けた。