伊藤探偵事務所の混乱 56

「KAWAさん、もう! おかしいですよ?」
KAWAさん:「ごめんねっ!」
ほっぺに“チュッ”ってしてくれた。
残念なことにか、そうされると悲しい男の性で何も言えなくなってしまう。
上目遣いにKAWAさんのほうを見た。
KAWAさん:「後のお楽しみ、後のお楽しみ みんな喜ぶわよ!!」
軽くスキップするようなKAWAさんの足取り。
KAWAさんの案内で奥に歩いていった。
ドアが開いて灯かりの漏れている部屋がある。
あそこかな? と思っていると
arieさん:「遅い!」
まるで、こちらがどこにいるか判っているように怒鳴りつけられた。
KAWAさん:「お姉さま、怒っちゃいや」
arieさん:「##$%$#$#$!!」
arieさんはよっぽどイライラしているのか言葉にならない言葉で怒っている。
KAWAさん:「ちょっと失礼」
テーブルの上に置いてあった調味料や花を避けて、いつ取ったのか判らないが僕の上着を広げた。
arieさん:「食事を邪魔してまでやる意味のあることでしょうね!!!」
文字と言うのはもどかしい、“!”マークを増やすことでしか話し振りを表現できない。
この言葉の重みは、例えて言うなら地獄の大きな釜の蓋が 言葉の重みでパカンと浮いたような感じであった。
怖いのは、言葉が終わったときの蓋の締まる音である。
とにかく部屋の温度が氷点下になるほどの怖さであった。
対照的に、KAWAさんの周りは、オレンジ色の暖かそうな光が出ているようで ふらふらとKAWAさんの影に隠れてしまった。
KAWAさん:「良く見て!」
上着は裏地を向けて広げられている。
そしてKAWAさんは、その裏地を一気に引き剥がした。
「あっ」
みんなが一斉に声を上げた。
裏地の中には、あのスカーフが見えていた。
シェンさん:「中国のことわざに言う 最も安全なのは臆病者の背中 物事慎重にあたるのがよろしいと言う意味よ」
erieriさん:「ただ乳繰り合っていたわけじゃないのね?」
「ちっ、そんな事していません!! シャワーを」
arieさん:「へー、シャワーを浴びるほどだったの 余裕ね!」
自分の言い方が悪かったことに気がついた。
顔はそれに反応して真っ赤になった。
所長:「やはり、そういうことは人に迷惑の掛からないようにだな」
arieさん:「誰が誰におせっきょしてるの!」
所長の普段の姿からはとてもそういわれても困る。入り口前に待っている 水商売のお姉ちゃん方をどうにかして欲しいと常々・・・
「いや、だから そうじゃなくて」
所長:「私は、清廉潔白だ」
arieさん:「あなたが清廉潔白だったら、悪魔が悟りを開けるわ」
いつのまにか、話が所長とarieさんの二人の話に摩り替わっている。
“とん”
背中から、肩をぬりかべさんに叩かれた。
振り返ると
ぬりかべさん:「よくやった」
kilikoさん:「と、言うことで たいした食事では無いですがおいしいご飯になりそうですね」
西下さん:「あ〜あっ、ご飯食べ損ねそうだ 恨むよ」
arieさん:「恨むんなら、あそび廻ってる男二人だけにしてね」
KAWAさん:「そうそう」
KAWAさんは大きな声で笑っている。
流石に鈍い僕でも気がついた。それでKAWAさんが喜んでいたんだということも。
そして、arieさんのいらいらも、いまの 明らかに人を非難する口ぶりだが決して悪意のこもっていないことも・・。
シェンさん:「日本語は難しい、臆病者とも言うが卑怯者とも言うよ」
erieriさん:「どっちでもいいけど、食卓にその汚い服は出さないで、食欲が下がるわ。」
kilikoさん:「ただいま、食卓も改めてセッティング致します。少々お待ちください。」
arieさん:「kiliko!」
kilikoさん:「判っております、すぐにデーターを送っておきます」
arieさん:「違うわよ、早く食事を用意しなさい」
arieさんがウインクしながら笑顔で言った。
kilikoさん:「はいっ、ただいま」