伊藤探偵事務所の混乱 70

洞窟の中はどこもそうですが、非常にかび臭く湿度が高くすごし難い。
そして、殆ど誰も踏み込んでいないのであろう 床は苔むしていて足元を危なくさせる。
もっとも足元が危ないのは僕だけのようだが・・
入り口からこうであれば、上着がぼろ布にならずに済んだのだろうが、もしそうなら人間でなくなっていた可能性があるのでそう贅沢もいえない。
大きな岩が何度も行く手を遮るが、その度にその岩を調べて 行く道を決めるのはarieさん。
arieさん曰く、「宝石ほどでなくても、岩にも意思がある。遥か彼方に通った物の記憶を覚えているかもしれない」と言っている。
知らない人が聞いたら、電波を受信している・・・・と言うところですが、彼女の場合 何度も僕たちはそういう光景を見てきたので 信じてしまう。
勿論、宝石の時のように僕たちの頭に響くほどはっきりとは出てきていない。
目も瞑らず、岩に触るだけである。
しかし、岩の意思が少ないと言うより arieさんのやる気が有るか無いかで反応の仕方が変わっているのでは? とは思うのだがとても恐ろしくて口に出せない。
erieriさんは、映画で見たスパイダーマンを想像するともっとも良く解る。
所詮見えないんだから、その姿を想像するのは難しいんだが、伸ばした手の先には細い糸を投げ飛ばしていて、どんな所でも渡っていってしまう。
arieさんが道を探して、erieriさんが進んでゆく。確かに最強のコンビである。
ただ、二人が進む時には 静かさや上品さを求められない。
互いを、ののしり合いながら進んでゆく。
この二人の間に挟まれれば気の弱い人なら、気を失いかねない程である。
arieさん:「いったぃわね!、もっとやさしく引っ張れないの?」
erieriさん:「あんたが教えるのが遅いから、ぎりぎりなのよ」
arieさん:「貴方が、年とって遅くなったんじゃない」
erieriさん:「あんたが重くなったから、手が遅れるんじゃない! 人にごちゃごちゃ言う前に安全な道を探しなさいよ」
arieさん:「探して欲しければ、ちゃんと安全な所に下ろして!」
erieriさん:「貴方が居る場所が安全じゃないのよ!」
二人の掛相の合間に僕は所々、ぬりかべさんに抱きかかえられながら進んでゆく。
勿論、二人が言う以上に安全な場所ではない。
両方の壁は倒れてくるし、床は抜けるし、そして、前の扉が閉まって後ろから岩が転がってくるなんて当たり前。
虫も、蛇も 何でも出てくる。
危ないもののオンパレードだ。
そう、僕もあまりのことに危なくなっている。
「ふう!」
arieさんが、崖の前で歩みを止めた。
そして、その安心感がため息をつかせた。
口から出てゆくため息が、足の力を奪ってその場にへたり込んでしまった。
arieさん:「最近の若い者は・・・」
erieriさん:「そうそう、昔の若い人は丈夫に出来ているからね」
arieさん:「流石、昔の人代表は言葉が重い」
arieさん、erieriさん:「フン!」
二人は、お互いに背を向けて座ってしまった。
ぬりかべさん:「ん」
無言で僕に水を渡してくれた。
喉が渇いていることを急に思い出し、あるだけの水を喉に流し込んだ。
水は、全て口の中に吸収され なかなか喉には行かなかった。
喉は次に、水を吸い尽くし 胃の中に入ったのは殆ど無かったと思う。
飲みたくて、ぬりかべさんの方を見たが 笑いながら僕の手にある水筒を僕の手ごとひっくり返すと 一滴ほどの水が落ちただけだった。
「これで終わりですね・・」
苦笑いをしながら言うと、ぬりかべさんは頷いただけだった。
arieさんとerieriさんも、実は肩で息をしていた。
浴びるように水を飲んだので、こぼれた水が膝にかかったからか 膝がまた力を少しだけ取り戻し立ち上がることが出来ました。
「arieさん」
arieさん:「ステージ1 クリアーしたわね」
「ステージ1ですか」
erieriさん:「ステージをクリアーすると出てくるのよね ゲームだと」
崖の下で岩の砕ける音がした。
arieさん:「あんた、ゲームやっているなんてよっぽど暇なのね」
「erieriさん、もしかして・・・」
arieさん:「あんたも解るの? ほんと、近頃の若い者は・・」
ぬりかべさんが銃を構える。
erieriさん:「冗談なんだから本当に出てこなくて良いって!」
あったんだ、こんな所に。 そう、ジュラシックパークが!
あれは事故で、恐竜達が暴れだすんだけど、ここでは事故が無くても暴れたいようで 目が血走っていた。