伊藤探偵事務所の混乱 71

arieさん:「ここは巨大ロボットよね!」
erieriさん:「そうね、恐竜じゃあ実在するじゃない」
arieさん:「そうそう、面白みに欠けるわよ」
erieriさん:「ただの、年寄りに付き合うほど暇じゃないわよ」
恐竜は、口から炎か放射能でも吐きそうな勢いでほえる。
いくら、谷底からからだとはいえ 恐竜である。
あの巨体で迫ってこられたら、押しつぶされてしまう。それよりも、あの口からはみ出ている牙にかまれて死ぬかもしれない。
明らかに、怒りをあらわにこちらに走ってくる。
arieさん:「じゃあ、後は宜しくね ロマンスグレーのおじさんの扱いは慣れてるでしょ!」
erieriさん:「あれは、年増女のヒステリー、貴方の担当でしょ!!」
arieさん:「何であたしの担当なのよ!」
二人は、恐竜が走ってくると想定される場所に 仁王立ちになっていい合いをしている。
恐竜は、50m程度の場所まで近づいてきて、力の限り吠え付けた。
“ぎゅゎお〜っぅ”
狭い空間なので、木霊で耳を押さえないと耐えられないような叫び声だった。
arieさん、erieriさん:「煩い!」
叫びながら、二人はお互いの間での視線を外さず、叫んだ。
恐ろしい事に、恐竜はその声で一瞬我を失い歩みを止めた。
と、いうよりその場所で固まってしまった。
振り上げた、と言っても貧弱なその手は振り上げてはいるが持ち上げている程度にしか見えない手も上げた状態で止まってしまった。
確かに、悪魔だって一瞬は動きを止めるほどの迫力だった。
きっと、僕が二人の事を知っている欲目のせいだけではないと思った。
しかし、erieriさんのことは良く知らないが arieさんと正面切って言い合いの出来る人が、いや生物がこの世にいるとは思えなかったが、やはり、世界は広い ヒト科の生物にすら存在した事を脅威だと思った。
そんな、二人が 怒って叫んだのだ そりゃー恐竜も足を止める・・・って 考えたらいくらなんでも不自然だ。
ゆっくり首を振りながら動き出す恐竜。振った首にあわせて、恐竜の後ろの岩が動いた。
そして、そのまま岩は恐竜のほうに崩れてゆく。
逃げようと暴れるが、良く見たら反対側の足には、すごく小さいがナイフのような物が刺さっていて動けないようだ。
きっと、岩はerieriさんの仕業だし、ナイフは見た事無いがきっとarieさんが投げたのであろう。
ゆっくり、それも怪獣映画を見るように崩れる岩。
その岩に押しつぶされてゆく恐竜。
反応速度が遅く、実際に潰されてから 叫び声が出るまでに大きな時間のずれがあったが 恐らくかなり痛かったことが想像される、悲壮な叫び声であった。
そして、段々叫び声がおおきくなって、叫び声と言うよりも悲鳴となってそのまま小さく聞こえなくなった。
その間も、恐竜の叫び声が大きすぎて何を言っているのか解らないが 二人とも何か言い合いながら恐竜などいなかったかのように歩いてゆく。
僕は両耳を手で押さえながら、上から岩が倒れたときの衝撃で 時々降ってくる小石をで 腰をかがめて、落ちてくる小石を背中に受けながら追っかけていった。
何だか、情けない格好ではある。
ぬりかべさんは、片手で弾薬の入ったリュックを軽々と頭の上に差し上げて落ちてくる小石を防いでいる。
何だか、二人のお嬢様の後ろをへこへこついてくる使用人と 荷物もちの使用人のような姿だった。
“ごん“っと腰の辺りに少し大きめの石が落ちてきて、腰ががくっと落ち もっと情けない姿になりました。
「待ってください、arieさん」
すでに、砂や石の崩れる音しか聞こえなくなっていた。その中に僕の声だけが通った。
erieriさん:「声を掛けただけで待ってもらえると思ってるようじゃあ ナンパは出来ないわね」
arieさん:「坊やだからね」
口では、なんのかんの言いながら 立ち止まって待っていてくれる。
重い足取りに、最後の鞭を打ち急いで追いつこうとする。
ぬりかべさん:「あわてちゃいけない、疲れているときこそ自分のペースで歩く」
ぬりかべさんが、僕の体を気遣って言ってくれている。
「あっ、はい すいません」
自分のペースを心がけながら 落ちてくる石が減ったので 背筋を伸ばして歩き始める。
自分でコントロールしているつもりだがあそこまで行ったら休めると思うと 自然 足取りが速くなってゆく。
「お待たせしました arieさん erieriさん」
二人は互いを見合わせにやっと笑った。
arieさん、erieriさん:「じゃあ行こうか!」
二人そろって、双子の悪魔に見えた。