伊藤探偵事務所の混乱 73

壁まで跳ね飛ばされたにも関わらず、狼男は直ぐに立ち上がり(というか四つんばいになり)こちらを威嚇する。
“ぐるるるる”
erieriさん:「あら、生意気な子」
僕から、狼男に向きなおした。
erieriさんの隙を見て、僕はぬりかべさんの影に隠れた。
erieriさん:「後でゆっくりお話しようね、ぼく」
視線は狼男から外さなかったものの、明らかに僕に向かって、そう やさしい口調で言った。なまじ、やさしいだけに背筋が冷たくなった。
ここまで来て、不思議なのは明らかに襲われているにも拘らず 襲った敵のことよりも仲間に恐怖を感じていることに。
まあ、冗談だとは思うが それよりも敵に恐怖を感じなくなっている自分に。
勿論、これが一人だったらそんなことは無いのであろうが、仲間といる安心感なのか 人外の能力を発揮なさる方々だからそうなのか 自分の感情の中だから解らないが思う。
勿論、僕の気持ちの事など 狼男さんたちには関係なく もうただ、erieriさんの今年か見えていないようだった。
arieさん:「とりあえず、座れば?」
既に適当な石を見つけて座り込んでいるarieさん。
言われて、僕も座り込んだ。
勿論erieriさんからは、ぬりかべさんを挟んで陰になる場所に。
3方から襲い掛かる狼男たち。
飛び上がった瞬間に、erieriさんは足元を大きく動かさないのではあるが 横にスライドするように動いて一体を迎え撃った。
空中で、向きまでは変えられる様だが方向までは変えようが無い。
そして、前に出た一匹を蹴り倒した。
いや、正確には相手の顔が来る場所に足を出してぶつけたと言うのが正しい表現であろう。
女性の足は凶器である。
少なくとも、山登りやバイクに乗ったりするのに異常に不釣合いな高いピンヒール。
その尖った踵が、顔にぶつかった。いや、正確には突き刺さったような状態である。
「うわ、痛そう!!」
そういえば、arieさんの靴にも高いヒールが付いている。
arieさん:「言い寄ってくる男を退けるための レディーの身だしなみよ」
僕の視線に気がついたのか、座っていて曲げている足を片方ピンと伸ばして足の靴を僕に見せ付けた。
ちゃんと、踵には金属製の底板が付いていた。
狼男ほどは出ていないが、自分の鼻を思わず反射的に押さえていた。
踵にぶつかっただけの筈が、そのまま跳ね飛ばされるように狼男は飛んでいた。
一旦着地して、こちらへのジャンプの態勢を他の二匹がとったが、今の状況を見て飛び上がる瞬間に横に大きくジャンプして一旦引いた。
arieさん:「さあ、ここからが本気よ」
arieさんが喋っている間に、相手のうなり声が消えた。
気配を闇に隠したようだ。唸っている間は本気ではないようだ。
地面を駆ける音も闇に吸い込まれるように消えていった。
沈黙が闇を支配した。そして、どこかで水滴が落ちてくる音がしてその瞬間に緊張が走った。
一匹の狼男がerieriさんに飛び掛った。
erieriさんは、少し後ろに下がって攻撃に備えた。
その瞬間に、狼男は口から何かを吐いた。
針とかでは無さそうだが、erieriさんの意表を突くには十分だった。
勿論、意表以外にも怒りもおまけでついてきた。
力任せに、飛び掛ってきた狼男を払った。
狼男は1メートルほど離れた地面にたたきつけられた。
しかし、その狼男の陰に隠れて、2匹の狼男が飛び掛ってきた。
一匹は、頭の高さに向かって そして、もう一匹は足の高さに向かって。そしてこの足元に来た狼男が死角になった。
2匹目に気がついた瞬間、膝を大きくその狼男に向かって蹴りだした。
蹴り足を出すための軸足となった左足に向かって、狼男は飛び込んだ。
もちろん、erieriさんが最後まで気がつかなかったわけではなく、蹴りだした瞬間のバランスを取るために、足をチラッと見た瞬間に気がつき、けり足の勢いを借りてそのままジャンプして避けようとしたのだが、それ故に余計に大きくバランスを崩した。
足が伸びきっていたために、掴まれはしなかったが 全力で体当たりをする狼男の肩が足を払い大きくバランスを崩した。
ただし、erieriさんの蹴りが鋭かったので、2匹目の狼男の顎を跳ね飛ばした後だったので 大きく前向きに 顔から地面に落下するだけで済んだ。
2匹の狼男が大きなダメージを受けたので、そのまま又、いったん闇に消えた。
状態を起こした、erieriさん。
「大丈夫ですか?」
erieriさん:「今度は大丈夫じゃないわ、顔に砂が付いちゃった。」
怪我はしていないようだった。
しかし、怒りの波動はひしひしと僕のほうにすら伝わってきた。