伊藤探偵事務所の混乱 78

見覚えのある風景の中を進んでゆく。
門の絵、そして地図は中に入ってからの順路を示していた。
「右、そして左 そのまま真っ直ぐ」
少女:「そう、間違えてないわ そのまま進んで」
「知ってるんだったら、案内してくださいよ」
地図は、古い布地である。
値段も十分に知っている。
気を使いながら、開きを変えて道を辿ってゆくのは骨の折れる作業だった。
少女:「だめよ、これは貴方の仕事よ」
ぴしゃりと言い返された。
何故だか解らないが、そう言われるとそうしなければいけないような気がしてくる。
やはり、そこは僕の気の弱さだろうか?
「えーっと、右で〜」
読み上げながら歩く。所々、たどたどしく読んでいるので 詰まったら少女も握りこぶしを握り両肩に力を入れて待っている。
知っていても言えない辛さのようなものを感じた。
道を辿る。少女の説明によると百数箇所の角を曲がって着いた所が目的地だそうだ。
幾重にも曲がる細い道。
しかし、門を越えた後は完全に人工的に作られた通路であった。
そして、幾重にも曲がる道には異なった選択があった。
少女:「間違えちゃ駄目よ、あっという間に命を落とすから」
「arieさん〜」
arieさん:「あたしに言ってもだ〜め。頑張って地図を読む!!」
何度か、壁を調べて道を探ろうとしていたarieさんだったが、岩でもない 良くわからないこの壁に対しては、どうしょうもなかったようだ。
「えーっと、みぎで〜・・・」
しかし、進んでゆくうちに地図を見るのが苦痛で無くなってきた。
目が勝手に道を追えるようになった。
目が、慣れてきたのであろう 進むべき道と今居る場所が、地図の上で光った線のように感じられて地図の上を追うのが楽になったからである。
erieriさん:「ここはどこ? こんなはずないわ?」
突然、喋りだしたerieriさん。
「どうしたんですか? ちゃんと地図どおり進んでいますよ」
少女:「物理法則だけで考えていちゃ駄目よ、ここまで来たんだから坊やちゃんを信じて着いてらっしゃい。どうせ戻れないし」
erieriさん:「自分で進んでいて気が付かないの、同じところを廻っていて 高さは変わってない。なのに、道路が交差しないのよ?」
地図を見ると確かに、自分でも良く解ったと思うが 道がくるりと一周している。
「でも、部屋の中だから高さが変わったのかも?」
erieriさん:「僅か、数十メートル進んだぐらいで 交差しないぐらい高さが変わったら馬鹿でも気が付くわよ」
そういえば、20mほど行って、また20m進むような道取りである そんなに、段差が着いていれば気が着くか
「本当ですね、前しか見なかったから気が付きませんでした」
少女:「ほんの数メートル? そうだった? 後ろを見て御覧なさい?」
erieriさんは後ろを振り向いた
erieriさん:「私の勘違いのようね」
そういったまま黙ってしまった。
僕も後ろを振り向いた。
後ろには、長い廊下が繋がっていた。
曲がる道ははるか遠くに見えるだけだった。
確かに、体感的には数十メートル行った程度だったが そうではなかったようだ。
少女:「じゃあ、続きを行きましょう!」
おかしい、どう考えてもおかしい、角を曲がって僅か数十秒の筈だったのに・・・
どう考えても納得いかない。
しかし、ここで止まっていてもしょうがない。
ましてや、後ろを見ればとても帰れないとも思うし先に進むしかなかった。
何よりも、僕の気持ちが僕を前に進めようとしていた。
地図に落とした僕の目は、明らかに先を見ていた。
ああ言ったが、erieriさんは納得のいかない表情だった。
一緒に歩き出したが、念入りに壁を調べながら歩いている。
そして、たびたび後ろを振り向いている。
そうすると、もっとおかしなことが事が起きた。
何度も振り向きながら歩いていると、erieriさんが僕たちの列から遅れだした。
少女:「何度も振り返るのはいいけど はぐれたら知らないよ!」
erieriさん:「煩いわね!」
僕たちが止まって待っているところに向かって追いかけてきた。
少し、怪訝な顔をしながら。
erieriさん:「ここは何?」
少女:「楽園よ」