伊藤探偵事務所の混乱 87

日が変わった頃には、組織の新体制が出来上がっていた。
arieさん主導の元、組織は統一されていて
erieriさん:「お土産!お土産!」
用意されていたお土産をことごとく喜んでいただいていた。
おばあさんの残したお土産は、彼女の予想以上のようでほくほくの表情だ。
それに反して、arieさんは一切のお土産(同等に彼女にも用意されていた)を断り続けていた。
最後に残された、主の言葉を忠実に守ろうとする彼らと、その彼らに今は自分が主人であるかのように振舞うarieさんとの勝負であれば結果は火を見るより明らかだった。
当然、arieさんがもらわないものを僕が受け取るわけには行かない。
僕も丁重に断った。
しかし、いつもは クライアントがいる場所ですら毒舌で帰らせるほど露骨な批評とばか高い調査費を請求するのに 以外にストイックな部分を発揮するものだと思った。
それとも、過去に何かあって感傷的になっているのだろうか?
気になって聴いてみると、
arieさん曰く、「いい女は、貰うものじゃないの、奪うのよ。人に感謝するなんてとんでもない!!」という事らしい。
言われてみればarieさんらしいと感心した。
思ったより、慌しく時間が過ぎて一週間もたたない間に、落ち着きを取り戻した。
僕は、何もすることが無いし、体がオーバーワークで悲鳴を上げているので、日がな一日ゆっくりすごした。
何もしないのも辛いもので、夜、寝むれなくなってしまう。
どこから漏れたのか、次の党首と呼ばれているのだが そんなつもりは全然ないので 人目を避けるように夜星を見るのが日課になった。
目の錯覚か、星が近くにいるようにも遠くにいるようにも見えるし ひとつに見えた星もよく見ると沢山の星の集合体だったり、何も無い空間に星が隠れてたり 意外と飽きない時間をすごした。
長い間、星を見ていると 目が暗闇になれ月明かりで十分に周りが見えるようになることも学習した。
そんな生活も10日も続いたある日、こっそり明かりもつけずに砦から出てきた人がいた。
「あっ、」
声を出した瞬間、首に強い圧迫感を感じ声がせき止められた。
勿論、呼吸もである。
敵の気配に、体が構えたが
eireriさん:「な〜んだ」
首の圧迫感が急に緩められた。
「ごほっごほっ」
何かしゃべっているのは確認できたが、聞く余裕は僕には無かった。
首から上がってくる血液の音を、耳が音にしているような状態だったからである。
「ひっ、ひどいじゃないですか」
erieriさん:「こんなところに座っているやつが悪い」
勿論、顔が確認できる明るさでなかったし、目もそれほど豊富に血液を貰っていたわけでもないのではっきりは見えなかったが、長身とメリハリの利いたボディで誰かぐらいは想像がつく。
そして、人を殺そうとしたにもかかわらず悪びれない態度は他に知らない・・・いやもう一人知っているか。
「どこへ行くんですが?」
首を押さえながら、僕は聞いた
erieriさん:「私は都会の似合う女、こんな田舎にいると匂いが付いちゃうでしょ」
「こんな夜中に行かなくても」
erieriさん:「お別れは苦手なの、あたしって内気だから・・」
「じゃあ、その手に持っている袋は何ですか?」
貰った以上のものを持って、出かけようとしている。
erieriさん:「やーね、お礼は貰ったけど報酬は貰ってないの! じゃあね!」
「あっ!」
聞きただす前に、言ってしまった。
らしいと思った。
arieさん:「無事に帰れるといいわね」
神妙な面持ちで、arieさんが言った。
arieさん:「さあ、行くわよ!!」
「へっ?どこへ?」
arieさん:「帰るのよ あの子が重い腰を上げないからどうしようかと思った。」
arieさんの手には持ちきれないほどに荷物があふれていた。そして、それを僕の目の前に出した。
「それは?」
arieさん:「いったでしょ、いい女は奪うのよ」
「そんな〜」
arieさん:「大丈夫よ、きっとみんなerieriが持っていったと思うから!」
って・・・・・
arieさん:「それにしても、erieri無事に帰れるかしら?」
表情は軽く微笑んでいて、悪魔の笑いに見えた。